第20編 ありがとう、また会えた
1 物忘れ
歳を取った確かな証拠。記憶の彼方に飛んでいく結婚記念日、誕生日。妻の笑顔は浮かぶのに般若面はうたかたに。
2 嫌な予感に包まれて
帰り道、足が勝手に家路を進み、頭の中は迷路となって出口は自分の電源オフ。運がいいのか悪いのか、思考の行き手は堂々巡りの大迷子。
3 現実逃避
いつものように朝起きて、いつものように出勤し、いつものようにデスクへ向かう。魔法の呪文、いつものように。ひそひそ話は聞こえない。
4 見られたくなかった顔
見られてしまった検査の結果。久し振りの涙の色は酷く不快な透明で、自分の顔が反射する。笑えるほどにひどい顔。
5 自分の都合に合わせて
勤続15の年月は紙切れ一枚断ち切れる。名残惜しさは山より高く、しかし恐怖は軌道を超える。
6 週3
何度目なのか分からない、久し振りのデートプラン、頭の中で思い描いた予定と計画、絶えず逸れ、何度目かのここはどこ?
7 家政婦としか認識されなくても
愛想尽かされ出ていかれ、家政婦頼りの時間を過ごす。寂しさは確かに感じているけれど、どうせすぐに消えていく。
8 せめてもう少しだけ繋がりを
友と名乗る人物が持ってきたのは硬い生地のシュークリーム。一口かじった歯触りと広がる甘味に浮かぶのは。
9 頭の中に確かにいる
写真に写る二人の姿。独りは自分で一人は妻で。今は隣にいてくれる。こんにちは、どちら様ですか。
10 ありがとう、また会えた
瞼の重みに耐えられない。閉じてしまえばもう二度と、開かないことは分かってる。ありがとうと口に出る。ずっと君の顔が見たかった。
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