惚れ性なのも考えものー③
「神様になんて、ならないで」
「…」
「何も出来なくてもいい、綺麗じゃなくても、頭が良くなくても」
俯いていた顔を上げると、困惑しきった彼女の顔。
名も知らない彼女に、言え。
『私はずっと、綴を、綴だけが、』
言うんだ。
「–––そのままの貴方が、私は、欲しい」
そう、絞り出す様に言った。
「…」
「…」
私と彼女以外の2人もいるはずなのに誰も喋らず、状況が動くのを待っていた。
長かったような、短かった様な。
口火を切ったのは、
「私、」
目の前にいる彼女で。
「…されたの?」
「ん?」
彼女はそっと自身の白い頬に両手を当てて。
「私、……………されたの?」
「んん?」
肝心な部分が聞こえない。
でも、今度はしっかりとした声で聞こえた。
「プロポーズされたの?」
「…んんん?」
聞き間違いかなぁ?あれぇでも私何て言った?
『–––そのままの貴方が、私は、欲しい』
言った、結構プロポーズっぽい言葉言ってるよ自分。
「ああ綴!」
「うぎゃ」
心の中でのスーパーローリングする私の腹部にトライする着物の少女。
「いや待ってあの、」
「本当にいいの?私で?」
花もはじらう乙女の頬を赤く染めて、私の頸に両手を掛けて見上げる着物の少女。
その可愛らしい仕草に、私の頭が限界突破した。
「あの、」
「うん」
「私勉強頑張るね」
「うん?」
「良い大学入って、良い仕事に就いて」
「うん」
「庭付きプールは厳しいけど、頑張ってマイホーム建てて」
「うん」
「子供は養子でいいから2人ぐらい育てて」
「うん」
「最後は2人で入れる老人ホームに入る」
「うん」
「どう思う?」
「うん!素敵!最高よ!」
私のガバガバ人生設計にブラボー!と言いながら、更にぎゅうぎゅう抱き着く着物の少女。
もういいじゃないか、諦めろよ自分。いいじゃん美少女喜んでいるからさ。
お前の今後の評判なんてチリに等しいよ。
「さて私の部屋はお嬢様と近くにしてもらってもいいですか?キッチンもシステム式のものにして貰えると有り難いんですけど」
「いやなんでカズミさんが一緒に住むことになっているんですか」
ナチュラルに入ってんくんな。
「お嬢様は繊細なお方。細やかなケアが必要なんです、そして私にしかそれは出来ない」
「何その自信満々な言い方」
「カズミは庭の犬小屋も隣にでも作れば良いわ」
「犬も飼うの?」
「そう犬小屋カズミ犬小屋みたいな風にして」
想像すると大分シュールだけど、カズミさんも「お嬢様がそう言うならそれで大丈夫です」とか言っている。
「そっかあ犬2匹も飼うってなったら良い獣医さんも探さないとね」
「そうね。因みに綴は犬種は何が好き?犬は綴に選ばせて上げる」
「えーと、」
「待って」
小型犬の方が世話しやすいかなって。
「つーかマジで誰だよ」
マイホームドリームを語る私達にストップを掛ける人が2人。
「名前なんだっけ」
「綴ちゃんだろ」
近寄って来るのは、美少年と美丈夫。
………どうでもいいけどここの空間の顔面偏差値の高さエグいな。
「清維の知り合いだっけ」
「知り合いっていうかクラスメイトよ。マサもそうでしょ」
「そうだっけ。こんな子いた?」
「ほら刺されたクラスメイトいたでしょ。それが綴」
どうも清維はここの空間にいる人と知り合いらしい。
チャラ系の美丈夫と腹黒っぽい美少年につっけんどんに返すところを見ると、そこそこ気心も知れているみたい。
ボケーっと話を聞く私の横で、
「え、綴ってお兄様の女に刺されたっていうあの?」
着物の少女が驚いたように私を見つめる。
お兄様?
疑問が口から飛び出る前に。
「–––
低く明瞭な声に場が静まる。
カツ、カツ、カツと男が歩く音が響く。
私達の周囲に集まっていた人達が自然と左右にはけていく。
「お兄様…」
着物の少女がポツンと呟く。
固唾を飲んで男の行動を見守っていると、私の前で止まった。
「…」
「…」
180センチ以上はある、ワイルドイケメンに劣らない恵体の持ち主は「どういうことだ」と言いながら着物の少女を見下ろした。
「…どういうことって?」
「
「それが?」
「本気か」
「ええそうよ。お兄様とは違って私は摘み具合なんてしないもの」
着物の少女の言葉に男は柳眉を顰める。
「摘み具合ねえ…その摘み具合相手を悉く潰して来た奴が言うセリフ?」
「便乗してそこの売女をおもちゃにして楽しむ、ここにいる男達に言われたくないわ」
「おもちゃじゃないよ、可愛がってるんだって」
「ペットみたいに、でしょ」
美少年と美丈夫相手に辛辣に返す着物の少女。
話の内容に覚えがあった。
フレア。
『でもさ、フレアが女の子囲うなんて、それって』
『ご奉仕係、だね』
『まあフレアって1人の女の子を囲うことあるけど、今日で2ヶ月でしょ?最長記録じゃん』
話の合点が言った。
モサイさんが囲われている女の子で、囲んでいるのがカズミさん除くここにいる男達ってことか。
そして、部長の恋人とされていた姉小路先輩が強行に走った原因が。
「いつものお兄様の悪い癖じゃない。ね?獅帥お兄様」
天條獅帥。
男の顔をまじまじと見つめる。
よく見たら着物の少女にそっくり。
怜悧さが加わった顔貌は、私と妃帥ちゃんを見下ろしている。正直何考えているのか分からないからちょっとこわ。
「綴ちゃん、だよね?」
私が天條獅帥の顔を見ていれば、チャラ男が横から語りかけて来る。
「そこのアンタが可愛いって言っている女は、悪魔みたいな女なんだよ」
「獅帥が手を出す女にトラウマがつくほどのことしては、惨めに捨てさせる。性格の悪さならこの中でダントツ」
「天條でも厄介者、いない者扱いの女。そんな女に俺らがどれだけ振り回されてきたことか。アンタ、それでもこの女が可愛いとか抜かせるのカァ?」
「綴、付き合いは考えた方がいいわ」
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