惚れ性なのも考えものー④

 


 チャラ男、美少年、ワイルドイケメン、清維の順に話してくるが、それよりも。


 くるっと着物の少女の方に身体を向ける。



「事実よ綴」


「…」


「お兄様が手を出す女男みーんな頭悪そうでアホみたいにお兄様を崇めているの。見てたらムカついてツイね」


「…」


「綴があの女…姉小路里美に傷つけられたのは、間接的とは言え私のせいと言えるかもね」


「…」


「でもお兄様も悪いのよ?気もないのに取っ替え引っ替えするなんて、感情のある人間のすることじゃ、」


「…なんだね」


「ん?」



 それよりも。



「妃帥って言うんだね」



 名前やっと分かった。ちょっと嬉しい。



「–––そういえば名前教えてなかったわね。天條妃帥っていうの」


「うん」


「…他に言うことないの?」



 私の嬉しそうな顔に、着物の少女こと妃帥ちゃんは至極不思議そうに首を傾げた。



「何が?」


「だって綴が刺された原因は私ですって言ったもんなのよ」


「あー…そうだったね」


「何よそんな話あったねみたいな言い方」


「だって、私が姉小路先輩と天條君の間に勝手に首を突っ込んで怪我しただけだし」


「…」


「恋愛って結局は恋愛している2人の問題で、それ以外は部外者だと思うし、2人の間で話しが済んでいれば私が口を出すこともないよ」



 1番被害受けた私が言っているわけだしね。


 それに恋愛は1人じゃできない。2人いて初めて始められる。始められるってことは終わりにするのも2人じゃないとだめっておばあちゃんが言ってたし。




「…綴って、本当に変な子」


「変だと駄目?」



 少しだけ不安になってそういうと妃帥ちゃんは「んー…」と言った後、また私をぎゅっと抱きしめて。



「いいわ。私のパートナーにしては中々いいじゃない」



 今度はよく言ったと背中を撫でてくれる。



「妃帥ちゃん…!」



 ぎゅっと抱きしめ返した私は、褒められた喜びのまま天條君に。



「お義兄さん、絶対に妹さんを幸せにします!」

「兄さん言うな」



 突っ込まなそうな天條君に突っ込まれてしまった。


 周囲が妃帥ちゃんと私のやり取りに呆気に取られているのを尻目に。



「貴方が人2人を幸せに出来るか実物ですね」


「カズミさん…だからしれっと自分をカウントしないでくれる?」


「いいのよカズミなんて。綴は私だけを見ていればいいの」


「妃帥ちゃん…!」





「正気かよ」



 水を差すワイルドイケメン。



「何ですか?」



 妃帥ちゃんを抱き締めながら、礼儀として一応尋ねてみた。



「ブスの癖に頭まで悪いとか救いようがネェな」



 その言葉に、



「余裕ないんですね」



 と言いながら妃帥ちゃんの頭に頬をあててスリスリする。ああいい匂い。



………さっきはこの人のこと怖かったのに、今は全然怖くないや。


 愛は人を強くするって本当だったんだね。




「アア?」



 それに、無駄に威嚇する人なんてまともに相手にする必要ないよね。





「今私結構幸せなので、幸せお裾わけしてあげますよ」



 彼のこめかみがぴきりと浮き立った。



「…ハア?」



「あら綴ってば優しい」


「いいの私余裕があるから」


「そうね、私からもお裾分けしましょうかしら」


「えー妃帥ちゃんの幸せは私に頂戴よ」


「まあ綴ったら強欲ね」


「人って愛を知ると強欲になるんだね、私も知らなかった」



 うふふぐははと笑いながら三文にもならないイチャラブ劇場をしてあげれば、私が真面に男と話す気がないことが分かったようで、男がブチ切れた。



「テメエら…!」



 振りかぶる男から妃帥ちゃんを守るように私とカズミさんが前に出る、が。



「やめて!」


「ヒロナっ」


「唐堂先輩に酷いことしないで」



………切迫した状況で思うのもなんだけどモサイさん、ヒロナちゃんって言うんだ。


 病院に来てくれてた時、丁度頭がぼんやりしてて名前聞いてなかった。



「お前コイツが、」


「…獅帥先輩の妹さんには、確かに酷いことされたよ。でも唐堂先輩は、私に優しくしてくれた」


「…」


「噂知っててもちゃんと私を、フレアのお気に入りでも、烈のくっつき虫でもないように見てくれて、優しい言葉かけてくれた」


「…」


「色々追い込まれてたから、救われたよ私は」


「…」


「家でも学校でも私って存在はいるけどいないような感じで、私って何なんだろうって思っていた。でも、唐堂さんは私のことちゃんと見てくれている」




 私が刺されてから一週間ぐらい経った後、土下座しながら謝っていたヒロナちゃん。


 その姿が、



「…」



 チラリと周囲を見れば、欠伸している人、面白そうに見ている人、何考えているのかわからない人、そっと目を伏せている人。

 

 身を縮こまらせて自分に非がある、自分がこんなのだからと謝る。


 この人達から見れば、本当に“お遊び”みたいなものなのか。



 お遊び…。



『ハハハッ』


『ヤッベェビビりすぎだろう』


『カワイソウー!』


『もっとやれよ!やれ!』



 頭にじりじりと痛みが広がる。


 ああ、やだやだ。


 腕の中にいる妃帥ちゃんをぎゅっと抱き締めた。



「モサ、ヒロナちゃん」



 本当に助けることは出来ないけど、



「え、はい…」


「ヒロナちゃん、部活入っている?」


「え」



 キョトンとした顔をしたヒロナちゃんに「どうなの?」と更に聞けば「は、入ってないです!」と大きな声で答えた。うんいい返事。



「私生徒会入っているんだけど、ヒロナちゃん入る?」


「えあ、でも私バイトしてて…お役に立てるか、」


「いや生徒会員としてじゃなくって。暇な時とか、どうでもいいことを誰かに話したい時、なんでもいいよ」


「!」



 見えづらいけど、顔に見合わない大きな眼鏡をかけたヒロナちゃんの瞳が、潤んでいるようにも見えた。



 言いたいこと伝わったかな。


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