第3話 逃避行
ほっとしているのも束の間、またおじさんが叫びながら近づいてきている。そこで見たのは光の筋だった。
「くそ、あのおやじ、懐中電灯持ってやがる。暗闇でやりすごそうと思ったけれど見つかってしまう。」
「どうするの…。」
と私はもうベソかいていた。
「絶対、守ってやるから。今はおれにまかせてくれ。」
おじさんがもう鬼にしか見えなかった。怖い黒い影がだんだん近づいてきて通り過ぎるかと思ったら足音が止まった。何やら灯りを照らしていた。そうしたら道を外れ森に入ってきた。
ガサ、ガサと言う音とともに懐中電灯の光が近くを照らしていた。私はなんでと思いながら彼を見ると、彼も緊張していた。一歩一歩近く足音に、心臓の鼓動が聞こえてしまうかと思うほどだった。
もう直ぐそばまでおじさんがきている。私たちは声を出さないようにしているのが精一杯で近くのおじさんの音で気がおかしくなりそうだった。
そのとき
「ケケケケケケ〜〜〜」
と鳥の鳴き声がして飛び立って行った。
おじさんが
「びっくりした〜。脅かすんじゃねよ。」
といいながら元来た道に戻って行った。
彼が、
「しばらくここにいるから目をつぶってて。」
と言って目をつぶった。私も目をつぶっていたけれど、彼の手を通して勇気や元気が伝わってきたから怖くはなかった。
ある程度おじさんが離れた後、彼は元来た道を戻って行った。目をつぶっていたのは暗闇に慣らすためようで、灯りを持っていない二人でもなんとか道がわかった。
「森の中って真っ暗じゃないんだね。」
「目が慣れたのもあるな。あとは少し前三日月だったから、今は上弦の月。だからお日様沈んだときに真上にお月さんいるから明るいんだ。これならなんとか歩ける。」
そうなんだと思いながら、彼の知っていることにただただ驚いていた。
森の出口が近くなり何だか楽しくなってきた私。でも彼は急に立ち止まり口の前に人差し指を置いた。
私が不思議そうな顔をすると
「出口付近に人がいる。この公園夜中に人がいるのなんて滅多ないからおかしい。」
「えっ、なんで、おじさん森の奥に入って行ったよ。」
「もう一人いたんだ。きっと。」
「どうしよう、初めのおじさん帰ってきちゃうよ。」
彼は考えて私にこう言った。
「森の中を歩くことになるけれどいい?」
正直怖かったけれど、おじさんに捕まることの方が怖かったのでゆっくりうなづいた。
「この前父さんとサバイバルごっこをしたときの道がこの先にあるんだよね。少し歩くと遊歩道に出るからぐるっと一回りして帰った。ちょっと長いけれど、見つからずに帰れるかも。」
もうそれしか方法はなかったんだと思う。彼が真剣な顔をしていたから。また私たちは森の中に入りしばらく歩いた。彼が
「この木の裏から道が続いていたはず。」
そう言ってゆっくり入っていく。私が怖がっていたので、手を出してきた。私は彼の手をつかんで引っ張ってもらった。あったかい手だった。
とても大きな手と感じた。ゆっくりゆっくり歩いていると、遠くの方で懐中電灯が光っているのが見える。今度は何かを探している気配はなく、ただただ通り過ぎて行った。その間森の中で身を潜めていた。
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