第2話 あの夜

 私は部屋で石を眺めていた。あの夜、彼からもらった石だ。この石を眺めながら思い出していた。


 まだ小学生の頃、彼といっしょに夕方の公園で遊んでいた。少し遠めの山の近くの公園だった。今日のように寒い冬だったけれど、彼と遊ぶのは楽しかった。彼は知らないことをたくさん知っていたので、いろいろと教わることが多かった。


 その日も彼についていこうと必死だった。なんとかついて行っていたし、彼も私のことを気にかけていたのがわかる。でも私が転んでしまった。とても痛かったし、膝をすりむいてしまっていた。


 「わるい、ちょっと調子に乗って早く走り過ぎた。」


 「こっちこそごめん転んじゃった。」


 「ちょっと待ってろ。」


 彼はそういうと水道でハンカチを濡らしている。どうやら傷の手当てをしてくれるようだ。彼を待っているとき、急に腕を掴まれ引っ張り上げられた。

誰かと思って後ろを見るとあのおじさんだった。


 何日か前からこの公園のベンチにずっと座っていた。初めは怖かったのもあったので彼にも言っていた。だけど何日か経ってもベンチに座っていただけだったので、だんだん気にしなくなっていった。そのおじさんだった。


 無言で腕を掴まれて連れていこうとするおじさん。私は怖くて何も抵抗できなかった。それをみていた彼が


 「何すんだおじさん。それ誘拐って言うんだぞ!」


っていいながらおじさんお腕に絡み付いた挙句噛みついていた。


 その時おじさんの腕の力が弱くなったので私は解放された。

彼が


 「走れ!」


って言うからとにかく走った。訳もわからず走った。森のところまで来たので入るかどうか躊躇していたら、


 「入れ!あとから俺も行く。」


そう言うから意を決して入った。走れるところ走ってもうこれ以上走れないと言うところで座って隠れていた。その時の恐怖は今でも経験したことはないぐらい怖かった。


 彼はどうなったろうと思いながら待っていると後ろからトントンと肩を叩かれた。わたしが


 「ひっ!」


 って声を上げると


 「しっ!」


 っていいながら彼が口に手を当てている。私はほっとしていたが彼は緊張した面持ちで


 「最後あのおじさんの股間を思いっきり蹴ってきたからのたうちまわっている。でも俺が森に入るのを見ているから追いかけてくると思う。」


 「そんなぁ…。」


 「なんとか逃げ切るぞ。走れるか。」


 「ちょっと疲れちゃって走れないよ。膝もいたいし。」


 「でもここは森の中でも道の直ぐ横だから見つかってしまう。」


 彼がそう言うと、遠くの方でおじさんが何か叫んでいるのが聞こえた。


 「やっぱり追いかけてきたか。」


 「どうするの!」


 「まずはここから逃げる。」


 「どこに。」


 「道端ではない森の奥に入って通り過ぎるのを待つんだ。」


 「森の中ははいっちゃダメって言われてるじゃん。」


 「でも今はこの道端にいたら見つかっちゃうから森の中に入ったほうがいいはずだ。」


 渋る私に


 「必ず家に連れて帰るから今は信じてくれ。」


と言った。あまりにも真剣な顔だったので怖かったけれど従った。


 「離れないように手をつなぐぞ。」


 そう言って彼が手をつないでくれた。私はほっとした。でも彼が小刻みに震えていたのは後になって分かったことだった。


 子供二人が隠れられるようなところを見つけて二人で隠れていた。


 夕焼けが終わって辺りが暗くなってきた。もうお互いの顔がぼんやりとしかわからないぐらいに森の中は暗くなってきた。暗くなると森の動物たちの声や鳥の声が鮮明に聞こえる。怖いと言うと彼が手を握ってくれて、これはなんとかという鳥だから大丈夫だって言ってくれた。

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