第3話 VTuber準備開始

 今日も今日とて学校の終わりのチャイムが鳴り響く。


 教室の窓から差し込む夕日が、机の上に長い影を落としていた。俺は、昨日ゆづからVTuberになりたいと言われたことを思い出していた。正直驚きはした。あいつがそんなことを言い出すとは予想にもしていなかった。しかし、同時に――あの目がゆづの覚悟を物語っていた。

 だから、俺はゆづを全力で応援しようとは思った。とはいえだ、今後どうなるか正直不安で仕方がない。


 VTuber。それは、バーチャルYouTuberのことであり、アバター(2Dまたは3Dのキャラクター)を使って、動画投稿やライブ配信を行う配信者のことである。2Dか3Dかは、人による。人気がある人は、やはり体全体を表現できる3Dが多いだろう。中の人、所謂「魂」は実在するが、視聴者はキャラクターとしてのVTuberを応援する。また、各VTuberには、設定というものがあり設定と中の人がどういう関係かで、また面白さや魅力が変わってくるというものだ。

 例えば、現実では破天荒な人が清楚を演じているなんてこともあり得るわけだ。そのギャップこそが、VTuberという存在の奥深さでもある。


 結局昨日は、夜も遅かったことから食事をしたあとゆづは、家に帰った。なので、肝心な話は、なにもできていない。果たして、ゆづは(準備するものがたくさんある)ということを分かっているのだろうか。


 俺は、そっと教室の中心を見る。そこには、多くの女子たちに囲まれているゆづが見えた。

 ゆづは、周りの子からお菓子をもらっていた。

 いや、お前餌付けされてないか?


 俺は思わず心の中でツッコミをいれてしまった。


 ゆづがこちらを振り返った。

 ふと目が合う。そして、ニコッと笑う。

 いや、あれは「ニヤッ」かもしれない。

 …なんだよその笑顔。

 俺は思わず目をそらした。



          *


「カチャ」


 鍵が開く軽い音が鳴り響く。


 今日は、俺が先に帰って来たようだった。

 とりあえず俺は、ゆづが帰って来る前に着替えて、今日学校で出た課題を終わらせることにした。高校なので、テスト前でない限りは課題なんてそうそう出ることはないのだが、今日は珍しくやる事があった。


 1時間ぐらいがたった。

 俺は、ちょうどやる事も終わり暇になっていた。ゆづは、まだ帰ってきていない。いつも、真っ先に俺の部屋にきているので、自分の部屋にいるということはないだろう。


 しかし、帰ってこないと話し合いもできない。手伝ってくれと言われたからには、自力は尽くすつもりだ。


 VTuberになるには、まずキャラクターが必要だ。どんな設定で、どんな見た目なのか。設定が決まらないことには、見た目なんて作れやしない。


 見た目を作るにも、俺もゆづも絵を書くことなんてできない。俺もパソコンは、得意ではあるが絵は子供のお絵かきレベルだ。そうなれば、見た目はゆづが頑張るか外注することになる。

 金を使うのはこの際極力避けたい。配信機材とかを後々買わなければならなくなるからだ。


(ゆづに頑張ってもらおう)


 悠月が知らないところで朔真は、密かに決意するのだった。


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