第2話 悠月の覚悟
「VTuberになりたい」
その言葉が落ちた瞬間、俺の脳内は真っ白になった。
「VTuberって……あのVTuberのことか?」
「うん。朔の想像しているので、合ってると思う」
どうやら同じものを考えているようだったが、どうして急にまたそんなことを言い出したのだろうか。
俺は、驚きと戸惑いで、すぐには言葉が出なかった。
そんな俺を置いて、悠月はゆっくりと話し始める。
「急にって思うかもしれない…
でも、ゆづにも考えがあるの。そして、朔にもできれば手伝ってほしい」
考えがあると話すゆづ。ゆづの目には、たとえ反対されようとも説得してみせんとする力があった。俺は、相槌をうつこともできず、話の続きを促すことしかできなかった。
ゆづは、すっとポケットからイヤホン取り出して、俺に差し出した。
「まずは、これを聞いてみて。」
黙って俺は、言われるがままにイヤホンを耳にさした。そこから流れるのは、軽快なリズム。ドラム、ギター、ベース――基本の楽器から奏でられる音と、聞きなれない楽器の音が組み合わさって、複雑な旋律を形作っている。歌はないのに、今にも声が乗りそうな完成度だった。俺はすぐにこの曲にのみこまれた。
俺は、思わずゆずづに尋ねた。
「……この曲は?」
「ゆづが作った。」
「いつの間に……?」
普段から寝るときと学校以外は、大体この部屋にいるゆづだったからこそ俺が知らない時間は、少なかった。俺の部屋にいるときも、宿題をやる以外は俺とアニメの話をするか、ゲームをするかだった。だからこそ、そんな時間をどこで作ったのか不思議だった。
「自分の家に帰って、寝る前とか……朝とか…隙間時間を使って、少しずつ。はじめは、作る気はあまりなかった。寝る前の遊び感覚で、アプリをいじってた。そしたら、何かつくれそうと思った。作ってみたら止まらなくなった」
ゆづは、はじめはいつものように途切れ途切れのゆくっりの話だったのが、はっきり語り始めた。
「ゆづには、昔から夢中いなれるものがなかった。いつも隣にいた、朔がやっていることを真似して、一緒にすることで何かをしている気になっていただけ。ゆづは、そんななにもない自分が不安だった。けれど、初めて自分で最後までやることが出来た。それをこれで最後にしたくないの。これで朔に見せて満足してしまっては、私は、一生このままだと思う」
肩が上下している。声を張らなくても、俺には、ゆづの覚悟が伝わってきた。
俺は、無意識にゆづの隣に移動した。俺の手は、ゆづの頭に吸い寄せられていく。
「分かった。ゆづがVTuberになろうと思った理由、覚悟は。でも、VTuberになるには、想定していないような苦労がある。……VTuberって甘くない。俺には、分かるが、ゆづは知らないこともたくさんあると思う。時には、炎上することがあるかもしれない。それで、引退になることも。配信したって、視聴者がつくとも限らない。このVTuber時代と言われる時代、様々なVTuberがいるし、企業勢なんかもいる。個人勢でやっていけるなんてごく少数だぞ?」
俺は、彼女を落ち着かせながら諭すように言った。何様だろうと思われてもかまわない。どう思われようとも今後待つ困難で彼女が苦しむ姿は見たくなかった。無理をして潰れてほしくなかった。
それでも、ゆずはまっすぐに言い切った。
「分かっているつもり。それも覚悟の上。
その上で、ゆづの頑張りを一番近くでみていてほしい」
ここまで言われたことによって俺は承諾する。覚悟に関心して受け入れた。決して彼女の最後の言葉の可愛さになんというか庇護欲みたいなのを感じたわけではない…はずだ。
こうして、幼馴染の新人VTuber計画が始まった。
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あとがき(読み飛ばし可)
更新が遅れました。毎日18時台には更新出来たらと思います。
前話も読んでいただきありがとうございました。
応援や感想等、ぜひよろしくお願いします。
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