第6話
「ハナバナ。あなたの教え子はとても優秀ですね。貴方を見つけることも容易く。教会の門番になってくれることも躊躇わず。本当に貴方の教え子はとても優秀です。
優秀ですがもしものこともあるかもしれません。私は油断による敗北がとても嫌いなんです·····私をよく知っている貴方なら私がこんなことを言わなくてもわかりますよね?」 ゆっくりとにこやかに私のほうに振り向くナナ僧侶長。
その姿に、私はただ頷くことしかできない。そしてその指示にいや違う。その絶対的命令に私は従うことしかできない。
「〈遮音結界〉」 と私は魔法を唱えた。
「素直で助かりますハナバナ。ですが、物足りない。これでは人は入ってきてしまいますね。もしかしたら動物も、最悪魔物だって。
好ましい最適は·····そうですね。人よけの結界、隔離の結界ですかね。もっと好ましいのは神聖魔術を織り込んだ結界ですが·····今の貴方には即死毒ですからねやめときましょう」 と言うナナ僧侶長の言葉には感情が感じられない。
意思が伝わらない。心の内が読めないと言うのは実に不安で得体の知れないものと相対しているのと同じく恐ろしい。
それに、やはりと言っていいか。私が呪われて魔物になっている事が周知の事実と言うことを遠回しに伝えてきているのが分かる。
私はゆっくりと恐る恐る被り物を脱いだ。
「分かってはいましたが、頭が炎とは本当に不思議ですね。そのような姿の魔物を聞いたことも見たこともありません。実に不思議です」 と言うナナ僧侶長の言葉に、私はただ俯くしかなかった。
私の念頭にあるのは、いつ私が殺されるか。
「今回の事件。事の発端。それはすなわち封印の様子を見てきて欲しいと言う依頼。この依頼を受けたのは私。そしてこの依頼を貴方に任せたのも私。全て私。
この依頼の場所に最も近く、任せても大丈夫だと言う確証があったが故貴方に任しました。ですが、終わりはどうでしょう?。貴方は呪われた」
「未熟さと油断が招いた結果です。ナナ僧侶長の名を汚してしまったこと、誠に申し訳ございません」
「確かにそうかもしれません。ですが、私は貴方が許しを乞う事も責任を負い僧侶を辞める事も、貴方が死ぬことも私の名に誓って許しません。先程も言いましたが事の発端は私です。事前調査を怠った私の責任です。封印されている魔物の凶悪さ強力さ。それらを踏まえての調査·····それら全てを怠った、私の責任です」
「!!。そのような事は決してありません。むしろ言うのならば! 封印されている魔物をより警戒しなかった私に責任があります!!」
ナナ僧侶長の手が私の炎に触れた。
突然のことで驚いた。「ナナ僧侶長」 そう言おうとした時、目に映ったのは心配する親のような顔したナナ僧侶長だった。
私はその顔の意味を理解できなかった。圧倒的に悪いのは私なのに、何故そのような表情をするのか私は理解できなかった。
「この炎·····暑くないんですね。不思議ですね。呪いの解呪が効かない呪いですか。そして神聖魔術が即死毒と同じ扱いですか、厄介ですね。神聖魔術を使わない解呪方法を早急に探さねばいけませんね」
優しい言葉。何故そのような優しい言葉をナナ僧侶長はかけてくれるのだろう。ナナ僧侶長は悪くない·····私が悪い、私が悪いのに!!。
「このような姿になってしまった私をなぜ罰しないのですか?」 ナナ僧侶長に向かっていった言葉はその一言だった。
「そうですね。貴方の姿は他の者達から見れば敵です。もちろん僧侶の皆々様から見ても。ですが、私はそれを許しません。確かに今の貴方は魔物そのものです。
ですが、その前に貴方は僧侶です。そして貴方にはハナバナと言う名の確かな心がそこにあります。魔物にはそれはありません。そこが貴方と魔物の決定的違いです。私はこの後、僧侶長の皆様に貴方の事情を説明してきます。そして理解を得てきます、もし理解が得られなければ力づくにでも」
「そのような事をしてしまえばナナ僧侶長の身が!!」
「おかしなことを言いますね、ハナバナ。私の座を忘れましたか?。僧侶長です。僧侶長とは·····僧侶達をまとめ、導き、守る存在です。1人の僧侶を守れないならばこの身、この座ゴミも同然です。あぁそうでした。そんなことで忘れていた部分を解決しなければ。
他の僧侶達に今の貴方の身についての説明ですが·····そうですね。こうしましょう。ナナ僧侶長が調査をした結果、絶対安全だと確証をし私の監視下のもと、自由に歩くことを許可した。これでいきましょう」
淡々と進んでいく会話。理解の追いつかない現状。ただ今わかっていること、それはナナ僧侶長が私なんかのために名と座を使おうとしていること。
展開が早い、会話に割り込む余地がない。私が話に割って入ろうとした瞬間次の展開が構築されていく。
理解が追いつかず、頭が真っ白になっていた時。杖のカン!っと言う高い音が教会内に響いた。その音の発生源はナナ僧侶長の持つ杖。だから、私はスっとナナ僧侶長の方を見た。
「今から行う事が全て決まりました」 とナナ僧侶長は言った。ナナ僧侶長は真っ直ぐこちらを見ていた。
「ですが、やはり何も罰がないと言うのは良くないですね。そうですね、私があなたを探すのにかかった日と時間に来た仕事の諸々。その中には貴方に任せる依頼もありました。ですので、私の依頼を今の貴方ができそうな依頼と合わせて貴方に任せます。
かなり貴方を探すのに日と時間を使いましたからね私の仕事も溜まっているのです。ですので、ハナバナ僧侶の罰は"仕事漬け"です。今の貴方に任せれそうな仕事を選別次第連絡いたしますので、待機でお願い致しますね」
とナナ僧侶長はそう言って教会を出て行ってしまった。話に割って入ることも、話し合いをすることもできなかった。完全にナナ僧侶長の世界に入っていた。
はなから私に主導権はなかったと言うことだ。気づけば遮音結界が解かれている。
でも、それらを踏まえても尚·····ナナ僧侶長には感謝しかない。
「ありがとうナナ僧侶長」
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