第3話
陽が眩しい。
かなりの時間水底にいる気がする。
息苦しくない·····人ではないのだな、もう私は。私は水底を照らす光に手をかざした。
「何をしているんだ。私は·····」
私は川から這い上がる。
私は地面に投げ捨てた聖書を手に取ってカバンに入れた。悩むだけ無駄だ、起きてしまったななら起きてしまったことを変えなければ。
私は魔物の石像の元へ向かった。
◇
「禍々しい魔力は感じられない、封印も·····出来ているな」
再封印がもしかしたら失敗したのではないかと思って来てみたが、魔物の石像がしっかりと再封印出来ている。封印が成功していてよかった。
次は、私自身の問題を解決しなければな。この呪いをどう解くか·····。解呪は効く·····が全身が焼けるほど痛い。聖遺物による呪いの解呪·····そもそも聖遺物を触ることが出来ない身、それは最終手段だな。
そもそも、自身に解呪の神聖魔術を使った際に味わった痛み·····もしや自身に神聖魔術をかけることが出来なくなったと言うことでは?。
「〈解呪〉」
自身の体に走る激痛。やはり·····神聖魔術を自分の体にかけることが出来なくなっている。これも呪いの影響か·····。
これは、要するに····神聖魔術を食らうこともできなくなったということになる。神聖魔術を多用させていただく身としては、生き地獄そのものですね·····。
──足音。
まずい。今バレれば間違いなく倒されるのが目に見えている。どこか隠れなければいけない。
私は辺りを見回した。だが、そう簡単に隠れる場所なんてあるわけなく。一途の望みをかけて、木の上へ。
「この辺ですかね。なるほど確かにこの辺ですね」
聞き馴染みのある声だ。
それこそ、私の教え子·····ラウェンの声に似ている。そんなわけない。このような場所にラウェンが来るような用事があるとは思えない。
だんだんと声が近くなっている。あぁどうか気づかないで過ぎ去って行ってくれ。
「この地点ですね。そしていつまでそこで隠れているつもりですか·····先生!!」
あぁやはりこの声は聞き馴染みがある声だ。もしも私の予想が当たりラウェンがこの近くに来ていると言うのならば、どうか私を見つけないでくれ·····。このような姿になってしまった私を見つけないで欲しい。
「いつまでそこで震えてるんですか!先生」 幻聴じゃない·····確かなる意思を持って私に向かって声をかけている。そう、これはバレている。あぁバレているんだろう。でも、そんな現実には目を背けたい。
「先生。事情は全てナナ僧侶長から聞いています。ですので、今の先生のお姿を見ても何とも思いません、倒すこともしません。だから木の上から降りてきてください」
「ラウェン·····」
まぁ、このような場所でバレないなんて事はあるはずもないか。それにナナ僧侶長の名を聞いてしまったからにはもう逃げ場はない。
私は木の上から降りた。
「先生。本当に頭が炎ですね」
「見ないでくれ·····」
「嫌でも目に入るんで見ないでは無理です」
「ラウェンよ聞いてくれ。見ての通り、私の今の姿は魔物そのもの。このような姿で教会に戻ることも村に帰ることもできない。わかるだろ? 倒されてしまうんだよ。それに教え子たちにも迷惑をかけてしまう·····勿論、ナナ僧侶長にも。だから私はここから動けないんだよ」
「先生。先ほども言いましたがナナ僧侶長から事情は全て聞いております。なので私は準備を万端にしてここに来ております。まずはこちらをお被りください」 そう言ってラウェンから手渡されたのは獣の被り物だった。
獣の被り物?。どうしてこのような物を?。まぁ確かに体は人だ魔物じゃない。頭さえ隠せばと言う話ではあるが·····獣の被り物?。
「お忘れですか先生。人が少ない村が唯一活気に満ち溢れる大イベント豊穣祭の季節ですよ」
「もうそんな季節なのかい? 私はどれだけ寝ていたんだ?」
「そういう訳で獣の被り物です。まずはその被り物をしていただき教会に戻りましょう。話はそこからです」
相変わらずラウェンは落ち着いていて芯がある。私はそこに憧れる·····冷静な判断、私の苦手の分野だ。
ラウェンが私の手を握った。
「先生なに呆けているんですか。行きますよ」 ラウェンはそう言って、私の手を引っ張った。
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