第2話
「水の流れる音がする·····近いな。そういえば水筒の水少なくなってた·····ちょうどいいか」
私は水の流れる音がする方へ向かった。
木漏れ日が照らす草木の中を掻き分けて、ゆっくりと私は進む。
進むにつれ、水の流れる音がだんだんと大きくなっていった。
──ほおーこれは綺麗な川じゃないか。
草木を掻き分けたどり着いた川は、陽の光に照らされピカピカと輝いていた。
それにとても澄んでいる。
私はカバンから水筒を取り出し、川の水を入れようとした·····。
だが水をすくおうとした手がピタッだと止まった。水面に映る自分の姿に言葉も出ないほど驚いてしまったから。
そして私は水面に映る自分の姿が事実であるかどうかを確認するため、自分の顔に触れた。
「あぁ...この写っている自分の姿は本当なのだな」──と私の口から漏れ出た言葉はそれだった。
映る自分の姿·····それは信じたくない姿。
確かにそこにあった自分の顔は怪しく燃える炎になっていた。
その姿は、一言で表せる姿。
「まるで魔物じゃないか」
私は心の底から悲しんだ·····。
悲しいはずなのに、涙の一滴も出ない。
ただ水面に映るのは怪しく燃える炎が揺れる姿一つ。
そして不安が襲いかかった。
今のこの姿でこのまま人里に降りれば私は間違いなく魔物が襲いにかかってきたと思われ討伐されるのが目に見えている。
だからと言って教会に戻ったところで同じく討伐されるのが分かっている。
「行き場·····なしか」 私の結論はそこに至った。
絶望感が襲いかかる。
いや、考えてみよう。もしこの状態が呪いによる影響ならば解呪で解けるのではないか?。
呪いの解呪ならば何度かしたことがある、勿論自分自身も含めて。
自分にかけられている呪いがどれほど強力かはわからないが·····。
私はすぐにカバンに入れておいた聖書を取り出そうとした。
「ッ!?」 聖書に触れた途端だ、激痛が走った。すぐにカバンから手を抜くと聖書に触れた部分がなくなっていた·····。
唖然としていた時、カバンからこぼれ落ちているキラキラと光る砂のようなものが目に入った。
「砂·····? いや、これは灰? しかもただの灰じゃない聖灰だ·····。 だが私は聖灰なんて持ってきていないぞ·····どういうことだ」
私は混乱した。
目の前で起きた理解不能な出来事に、私はただ唖然とするしかなかった。
ふと、消えた部分を見ると再生していた。
指の一つ一つしっかりと動かせる·····幻覚でも見ていたのかとさらに頭の中が混乱した。
──これは憶測だ、何の確証もない。
私はもう一度聖書に触れた。
ビリッと言う痛みが手から腕に流れた。
そして、聖書の上に聖灰が積もっていた。
「これで確証を得れた。 私は聖遺物に触れることができなくなっている·····。これも呪いの影響か?」
私はカバンから見えたものを一つ手に取った。
それは革手袋。
もしかしたら·····もしかしたら生身で触れなければ聖遺物に触れることができるのではないかと言う足掻きの一つだ。
でも今はたった一つの希望かもしれない。
私はその希望に賭けることにした。
私は革手袋をし目を瞑って聖書に恐る恐る触れた。
──ピリッと言う痛みが来ない? 私はゆっくりと目を開けた。 そして私の目には聖書に触れることができている自身の手がそこに映っていた。
「やった·····」 嬉しさのあまりその言葉が出た。
だがもう一つ私の不安があった·····。
それは神聖魔術が使えるかどうか·····。
神聖魔術は聖書を持つ資格がなければ使うことのできない魔法·····この姿である私が神聖魔術を使えるかどうか·····。
不安が重くのしかかる、恐怖が私を襲う。
私は震える手で聖書を持った。
「〈呪いの解呪〉」
私は神聖魔術を唱えた。
眩しく暖かい光が私を覆った。
水面に映る怪しく燃える私の顔が徐々に元の顔に戻ろうとしていた。
「成功だ」 私は歓喜で満ち溢れた、でも歓喜が激痛に変わるのは一瞬だった·····。
全身が燃えるように熱く、私は地面を転げ回った。
「痛い! 痛い! 痛い! 痛い!!」
私は聖書を放り投げ、川に飛び込んだ。
水の中は苦しいはずなのに苦しくない。
水の中は冷たく寒いはずなのに寒くない。
流れるはずの身体は重いのか流れない。もう自分が人ではないとわかってしまった瞬間だった。
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