教師近藤と山登り

 近藤が所属している中学校で、林間学校があり、山に登るスケジュールが組まれていました。

 近藤は、マラソンもそうであったように、地道に歩を進めなければならず、とても疲れるので、登山は苦手です。しかし自分だけパスするわけにはいきませんから、きちんと登りました。

 たどりついた頂上で、彼は感慨深そうに景色を眺めました。それを見た数人の生徒のうちの一人が言いました。

「先生、『やっほー!』って叫びたいんじゃないですか?」

 するとなぜか、近藤はやたらに照れました。

「ば、バカ。そんなことあるかよーっ」

 まるで子どもが友達に「お前、あいつのこと好きなんだろ?」などとからかわれたときにするような態度です。

「べ、別に、したかねえよーっ」

「そうですか……」

「え? 何なの?」と、軽い気持ちで問いかけた本人と、一緒にいて見ていた周りの生徒たちは、引きました。なので、もうその話は終わらせようと、それ以上は口にしなかったところ、近藤の目が彼らを凝視しながら死んだ魚のようになりました。それは、「何でやめるの? もっと『うそー。叫びたいんでしょー?』とか言えよ」という意図なのが明白な表情なのでした。

 ということで、仕方なく再度、尋ねた生徒は述べました。

「またまたー。叫びたいって顔に書いてありますよー」

 近藤は嬉しそうにまた照れて答えました。

「コラー。教師をからかうんじゃないよ、まったく。でも、そこまで言うなら、叫ぶとするか」

「そんなに『やっほー』って言いたかったのかよ」と、改めて生徒たちは引きました。

 そして近藤は遠くの景色に視線を移して、大声で叫びました。

「青春のバカヤロー!」

「……」

 子どもたちは、「訳がわからな過ぎる……」と、へたに近藤に絡むのはやめようと肝に銘じたのでした。

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