教師近藤と願い
近藤が働く中学校で、七夕の時期に、短冊に願い事を書くことになりました。小学校ならともかく、中学校ではあまり見ない光景かもしれません。そこの学校でも例年はやっていませんでしたが、その年の生徒会役員がとても活動的で、世の中で暗いニュースが多いなか、夢や希望を持とうという思いで、行うことを発案して教師たちに訴え、実施に至ったのでした。
皆、自分の願いをどうしようかと頭を悩ませるのと同時に、他の人のものも気になります。多くの生徒、それに教師までも、その短冊の中身を見たい人物のラインナップに近藤が含まれていました。
そして近藤が記した言葉はこうでした。
〈これ以上、トイレが近くなりませんように〉
職員室で、彼は別の男性教諭に声をかけました。
「先生、私の短冊の願いなんですが……」
すると相手は真顔で言いました。
「ああ、良くなるといいですね。病院には行かれてるんですか?」
とても同情的です。
「いえ、そこまででは……」
「そうですか。お大事に」
あまりそのことに触れるのは失礼だろうといった態度で、軽く礼をして離れていきました。
「……」
近藤は中年なので、確かに以前よりトイレが近くなってはいますけれども、実はまったく困っていませんでした。
彼は一人になってつぶやきました。
「もっとウケると思ったんだけどな」
今の教師だけでなく、ほとんどの人が真剣に受けとめている様子なのです。
近藤は、失敗したと思ったのでした。
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