第8話 光子の告白
サチは駅の西口で呆然としていた。
秀美も肩を落とす。
待ち合わせはどうやら失敗に終わってしまった。
「私、もう1回みっちゃんに電話」といいかけた秀美をサチは制した。
「秀美さん、助けていただいてありがとうございました。私、もう満足です。最後にこんなに親切にしてもらって、いい思い出です。」ペコリと頭を下げると、髪が尻尾のように振れた。
そのまましばらく秀美とサチは黙って見つめ合っていたが、最後に伸びをして駅をぐるっと見渡すと、決心したようにサチは歩き始めた。
「サッチャーン!幸せになって!」
ハンカチを振る秀美に再び頭を下げ、サチはそれっきり振り返らなかった。
「ごめんね、2人を会わせてあげられへんで。」遠くなったサチの背中に向かって秀美は謝る。
秀美は自分が大変な時、辛い時、いつも親友に支えられた事を思い出していた。
西口に向かう光子の一行は途中で晶子が抜けた。若い頃に東口の噴水でよく待ち合わせをしていたことを思い出したからだ。
「私、秀美とサチさん、見つけてくる!」
思いついたら動かずにはいられない。
晶子はずんずんと反対へ向かって歩いていく。
「晶子さん、思ったよりも面白いですね。」
千恵にそう言われ光子は、微笑んだ。
「せやろ、あの子はおもろい。」
「でもなんで、こんなに親切にしてくれるんですか?」
そう聞かれて光子は足を止めた。
「おばちゃんはそういうもん!」
そしてまた歩き始める。
しかしその目つきはさっきまでと少し違い、寂しそうだ。
「実はな、私、昔、ホンマに昔やで、男の人と駅で待ち合わせててな」
そこまで言って光子は千恵を見た。
千恵は足を止める。
「そんで、その頃は電話なんかないから、3時間くらい待ってて、会えんかって、それっきり。」
「てっきりプロポーズされると思ったのに、ついてきてくれーって。けど、ふられたんやろな。」
落としたままの視線で光子は遠くを見つめている。
「それで、おしまい、ですか?」
「そう、おしまい。」
千恵は黙る。
2人でまた歩き始めた。
西口の手前で千恵は口を開いた。
「光子さん、その人、何か事情があったんですよ。」光子の肩を掴む。
「光子さんみたいに素敵な人、振ったりしません、誰も。」
「ええんよ、私、独り身やけど幸せやし。」
「親友がいますもんね。」
「そう、それに私お金持ちやし」
そう言って指輪を見せびらかしながら豪快に笑うと、千恵も釣られてクスクス笑いをする。
「あーあ、私もお金と親友、ほしい!」
千恵が突然そんな事をいうので、光子は面食らった。
その拍子に向けた視線の先に秀美がぱっと明るい顔をしてこちらに向かってくるのに気付く。
「みっちゃーん!なんで電話出んのん?」
そう言われて光子は慌ててカバンに手を突っ込んだ。
そして着信とメッセージを確認する。
「会えた、会え?会えたん?どこ?」
秀美に詰め寄る光子と千恵。
「サチさん、さっき行ってしもた。」
そう言ってサチの消えた方角を指差す。
千恵「どれくらい…前でした?」
秀美「3,4分?5分もは経ってない。」
光子「何してんのチエちゃん、走り!」
光子が千恵に向かって懇願するように言ったが、千恵の足は止まったままだった。
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