第7話 足止め

光子は困っていた。

たまたま助けたお年寄りとその家族に代わる代わる頭を下げられたからだ。

助けたと言ってもちょっとした手助けだし、あの場にいたのが誰でもこれくらいはしただろうと困惑する。

隣の千恵も「当たり前のことですから」と恐縮しているが、どうやら眼前の親子はまだまだお礼が言い足りない様子で、切り上げ方が分からない。


光子にしても千恵にしても、気がかりなのは別のことなので、この場を早く去りたいのだ。

光子はそわそわする気持ちが手の動きに現れて、何度もカバンをさすっている。

千恵はあからさまに「はい」とか「はあ」と返事をしつつ、一歩ずつ後退している。


その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「光子!おみつ!みっちゃん!それとちえちゃん!」光子の親友晶子がこちらに走ってくる。

「雨で滑るから!」と制しつつも、光子は助かった…と喜んだ。

「なんでこんなとこに?会えたん?連絡は?会えたん?」晶子が肩で息をしながら尋ねた。

「まだ…いろいろ、あって」いろいろ、という時にチラリと視線を動かしたので、晶子は見知らぬ親子に気付いた。

「こんにちわ……どなた?」光子に向き直る。

「まあ、ちょっと、でももう西口に戻ります。」

きっぱりと、親子に聞こえるように言うと、娘のほうが人のいい顔で「まあ、お忙しい中?本当にええ方やわ、おおきに」と再度頭を下げる。

「いえいえ、もうほんまに、これくらいなんでもないことですから」

と言って晶子に目配せをすると、何となく事情を察して「すんませーん、この人、ちょっと急ぐもんで、失礼は承知ですが、この辺で」といいながら手を顔の前で振る。


数歩あるいた後、千恵が感心しで息を吐く。

「流石です!説明せんでも分かるんですね。やっぱり付き合い長いとちゃいますね。」

「そうやね、うちらもう何年?何十年?長いわー」光子が嬉しそうな声を出したあと、気遣うように付け足す。

「けど、ずっとやないもんね、いっとき離れとった。そらそうや、別の人生歩いて、また出会う、その時また親友に戻れたら、ずっと親友やったってことや。」

千恵はその言葉で黙り込む。

晶子は何のことかわからず光子を見て、千恵を見て、そして何も言わなかった。


いつの間にか外は暑いほどに晴れている。

三人が西口に着こうとしていた。

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