第6話 すれ違い
秀美が駅の東口でサチを見つけた頃、駅の反対側、西口ではちょっとした事件が起きていた。
歩いていたお年寄りが雨で濡れた床で転んだのだ。
そこへ咄嗟に駆け寄ったのは光子だった。
散らばる荷物を集め、立ちあがるのを助ける。
「いたた」
どうやら転んだときに捻ったらしい足首をおさえる。
光子「大丈夫ですか?」
お年寄り「大丈夫、娘と北口で待ち合わせしてるから、そこまで行きます。」
光子「でも足、それに荷物も」
光子はちらりと千恵を見た。
「ちえちゃん、ごめん、私この人送ってきてもええ?」
どこまでお人好しなのかと呆れる千恵だったが、それが正しいことだと思った。
「私も行きます。光子さんはカバンを。」
テキパキと光子のかばんを渡し、お年寄りに肩を貸す。
「まあ、おおきに、悪いわー」
そう言いながらも三人で歩きはじめた。
光子のかばんの中のスマホが秀美からの着信を知らせているが、光子は気付かない。
東口で
「あかん、みっちゃん出んわ。トイレやろか。」
四度目の発信も不発に終わった秀美が、メッセージアプリを開く。
「サチさんを見つけました。動かず待っててください!これでよし。」
顔を上げる秀美。
「ごめんやで、みっちゃん、ちょっとこういうとこあるんよねー」
サチにしてみれば共感のしようもないので、とりあえず相槌を打つ。
「そしたら、西口に行こか。」
「すみません。ありがとうございます。西口に千恵がいるんですね。」
サチはありがたくて涙が出そうだった。
親友の千恵とはいつの頃からかどんどん心の距離が空いてしまい、今度は物理的に離れてしまう。
自分の一部のように大事だった親友を失うかもしれない決断をしたのは自分だったが、それでも最後に一目会いたかった。
それなのに、肝心な時に。
サチは画面の割れたスマホを手に取る。
「はよいきましよ。」
秀美が明るい声を出したのは、サチの目に涙が浮かんだからだった。
「会ってから泣き。」
秀美は優しくサチの腕をなでる。
サチは少し照れて、微笑んだ。
「秀美さん!普通は気づかないふりするとこ!」
「ま!ほんまや!」
顔を合わせて笑い合う。
駅の中を突っ切って西口へ向かう途中、もしも秀美かサチのどちらかが注意深ければ右手側、駅の北口の方にゆっくりと向かう光子と千恵の背中に気づいたかもしれない。
しかし、思い掛けず親しくなった2人は話に夢中でまるっきり気付かなかった。
間もなく西口、そこに待ち人がいないことをまだ知らない秀美とサチだった。
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