小部屋

狭い部屋 一つの照明 小窓から見ることのできる一本の木 

全てが見慣れた景色 全てが初めて見る景色

背には扉が一つ 右には寝床 左には机と椅子

本棚に収まる細い建物たちは 静かに賑やかである


ここは誰の部屋だろうか 誰の部屋でもないのだろうか

ただ立ち尽くす私 じりじりと聞こえる電球の音

窓の外はとても静かなようだ 

鳥のさえずり 木々のざわめき 車の走る音

それらは全く聞こえてこない

自分の呼吸 一つの明かり 

この二つのみが私の耳を貸し切っている


扉から外に出ようとした でもなぜか感じる

ここから出たくない そんな気持ちが浮かび上がる

やけに愛着がわくこの部屋は何なんだろう

私の部屋なのだろうか 友人の部屋だろうか

答えのない問題を解こうと私は考え続けるのか

しかしながらそんな忍耐はないし 

さすがにこの空間から抜け出したい気持ちもある

よし 扉を開く


扉を開き 右足を踏み入れた瞬間 左手からドアノブが消える

たしかに窓の外は昼間だった なのにあたりは暗く

夜の街並みが広がる 一気に耳から入ってくるのは

人の足音 車の過ぎる音 大勢の声のかけら

ああ ここは 横断歩道の前で赤信号を待つ私

さっきの部屋は何だったのだろう ふとそんな気持ちになる

私がいるべき場所は あるのだろうか どこなのだろうか

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一話完結集 古音 深茶 @furuoto-shintea

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