第27話

「ふっ、俺はまともに働いたことがないからね。

響からしたら情けない父親かもね。」




俺の心を読んだのか自嘲気味に笑う




だけど、後悔や恥じらいなんてものは一切感じない




自身を持ってその道を進んでいる




「でもね、俺は家族と過ごした時間を後悔なんてしない。子供達の成長を間近で見て、愛する雨音と幸せな日々を過ごすことができている。

それだけで、十分なんだよ。」




そう笑う父さんはやっぱりかっこいいんだ




「すごいね、父さんは。」



俺は父さんみたいになれない




沈んだ気持ちのままエントランスホールを歩く




「桐生さん、先ほどはどうも。

これ息子さんの荷物です。」




急にそんな声が聞こえ振り向くと部長に呼び止められ、俺の荷物を受け取る父さんがいた




「あははは、物分かりのいいお父さんで良かったですよ。会社のお荷物だったんでね、息子さんは。」




父さんの前でさえ繕うことなくそんな事を言う




でも、きっと父さんはいつものように笑っているんだろう




優しい父さんは怒ったりしない




背中しか見えないけど何となくそう思う

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る