第71話

“お前の事情にも揺らがぬ度量をお持ちだ”、と父が言った通り、主は力づよく俺に告げる。

「ティレージュ様…」

「だが、そういう事情なら、エスト伯夫人は辛かったろうな。赤子の時からお前を我が子のように慈しんで育てた母上殿だろう。表にはけして見せずとも身を切られるように辛かったにちがいない」

「若様、でもそれは、」

「分かっている。俺が男でも女でもリュティーリアとエスト、両家の宿命(さだめ)は変わらない」

その通りだった。

「幼い頃、母上が時々俺に言うことがあった。勿論お前がいない時だったが」

呟くような声音で主は続ける。

「己を支えるものの働きをけして当たり前だと思ってはならない。色々な人生が人の数だけあるのだから。お前は幼くて今はまだ分からないかも知れないけれど、お前はルシアスと自分、二人分の人生を背負い生きるのだから、その重みを忘れないようになさい、と。」

「奥様が…」

「その当時は分からなかった。単純にルシアスが家を離れ俺の影となっているのを母上が気にかけているのだと思った。だが、今日納得が出来た。母上は全てを知っていたから俺にああ言われたのだと」

主は束の間、遠い眼をした。

幼き日の自分と母親を思い出すかのように。

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