第64話
そんな俺に、ある時母は文をくれ、そこには、
『私がどこにいて、何をしていても、哀しみや喜びに触れる時も、あなたは私の心の中心にいる事を忘れないで』
とあり、それに手作りの押し花の栞が添えてあった。
この国で蒼日草と呼ばれるその花は綺麗な水色の花を咲かせる。
「イグナシオの瞳の色と同じね」
とよく母が摘んでくれた花。
その文と栞は今も大切にしまってある。
あの言葉があったからこそ俺は影としての務めを続けてこれたのだ。
そう。
俺の母は、マッダレーナ・デル・エスト、ただ一人だけだ。
今、俺がすべき事は母に会うことではなく、ラスティの言ったように、事実を父に伝え、対策を練ることだ。
取り乱した姿をラスティには見せてしまったが、逆にそうやって吐き出せた事で俺は落ち着きを取り戻せていた。
「…もう大丈夫だ。父上に知らせたら恐らく直ぐにここへ来られるだろう。今日はこのまま一日、主も俺も屋敷から離れることはない。来られたらすぐに案内してくれ」
「はっ」
「…少し休む。父上には寝ていたら構わず起こしてくれと伝えてくれ」
そう言って椅子から 立ち上がろうとした時。ふっ、と目の前が眩(くら)んだ気がして。
気がつくとラスティの腕が俺を支えていた。
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