第63話

勿論、母が折に触れ書き綴っては手足たちに託し、届けられる文(ふみ)などで、交流を絶やした事はない。例え会えなくとも、お互いの心の中の面影は変わらずいつもあるからだ。

だが今無性に俺は母に会いたかった。

あの紅い瞳を思い出してしまったからこそ淡いブラウンの髪と深く美しい翠を湛えた眸を求めたのかもしれない。そしてもう一つ。

ラスティの前だったからかもしれない。あの事も全て知っている彼の前だからこそ、

「影としては失格だな。些細な事に心を乱して。そして今俺が望んでいるのは、調査の結果を」

「若様、ご安心下さい。あの方の存在が今明るみに出ることは事態を混乱させます。もう少し私達が探り、お父上や公爵様達とも話し合って進めるべきなのです。その為、私達は王宮の内偵がそこまで進まぬよう今から動きます」

洩らした弱音にラスティは力づよく答える。

「…頼む。それから、父にこの事を知らせてくれ」

「承知」

「俺は弱いな、ラスティ。今会って事情が知れれば母上が哀しまれるとわかっていても」

会いたい。

俺の言葉にしない願いをラスティは読み取ったようだった。

「…若様」

あれ以後。うなされては飛び起きる幼い俺の背をさすり、抱き締めてくれた優しい『母』。

務めとはいえ、幼い俺が別離の悲しみを思い切るのは容易ではなかった。

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