第59話

そしてもう一人。

女をきつく哀しみのこもった眼で見つめる女性。

「お姉さま、貴女はなんという事を」

「お母さま!」

「大丈夫よ、イグナシオ、もう大丈夫」

駆け寄る俺を抱きしめてくれる温かい腕。

そして、

「お前逹、その女(ひと)を部屋へ戻しなさい」

彼女は静かな声で屋敷の者へ指示を与える。

指示通り、召し使いの青年逹が押さえつけていた手を緩め、女を立ち上がらせようとする。だが、素直に立ち上がったようにみせて、また女は俺の方へ手を伸ばそうとして青年逹の腕から逃れようと身をよじる。

「お姉さまっ!」

「…あと少しだったわ。あと少しでお前の可愛い可愛い『息子』が殺せたのに。お母さまと呼ばれてさぞ嬉しいでしょう?」

「…お姉さま」

「大嫌いよ。お前もその子も、お父様もお母様も。伯爵様もこの家も。“あの家”もね。…いつか必ず滅ぼしてやる」

「…連れて行きなさい」

「はっ」

青年逹が女と共に去った後。

俺がお母さまと呼んだ女性はもう一度俺を抱きしめる。

「怖い思いをさせたわね。ごめんなさいね、イグナシオ」

「奥様、俺が悪いんです!俺がついていながらっ」

ラスティの声は涙声だった。

「いいえ。お前のせいなどであるものですか」

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