第58話

絞り出すように呟く声は自分の声ではないようだ。

遠い日の記憶。

首に絡みつき喰いこむ細い指を覚えている。

『やめて!貴女は誰?』

幼い日の自分の声。

『イグナシオ、憎たらしい子…』

今も耳を離れぬ高く細い声。

『やっと逢えたのに…私がわからないのね』

『やめて、苦しいよ!』

首に絡みつく指の力は緩まない。

『…大嫌い。私の物にならないものはみんな大嫌い。“あの家”も、私にちっとも似ていないアイスブルーの瞳のお前も』

意識が薄れながら、白金の髪、紅色の瞳が脳裏に焼き付けられる。

その時。

「誰だっ!何をしているっ!若様を離せ!」

部屋に飛び込んできた、当時は八つだったラスティの声が響いて。指は俺の首をパッと離す。

「大丈夫ですか、若様!」

咳き込む俺の背を擦(さす)りながら、庇うようにしてラスティは俺の前に立つ。

程無く足音がして屋敷の者が駆けつけてきて。

咳き込む俺と、仁王立ちのラスティ、床にしゃがみこみ、目の焦点を失いながらも俺に憎悪の眼差しをむけている女を発見し、彼女を取り押さえにかかった。

「なんて事を!」

駆けつけてきた乳母は涙を浮かべて女を睨みつける。

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