第55話
「早いな、…帰ったか」
「はい」
窓を開けることなく聞く俺に窓の外から返る『声』。
「…話せ」
窓の近くに椅子を寄せ、俺は座る。
「まず、女ですが、詳しく探った所、行方知れずは二名です。」
「二名?」
「はい」
『声』が続ける。
「宮女が一人、そして宴付きの妓女が一人」
「それで」
「宮女はこの春、内親王殿下のお側に上がった者とか。妓女はしばらく前の宴から殿下のお側に」
「…捨て駒か」
「恐らくは」
エルンスト公の動きが活発になって来たのはここ半年。オルランド様への繋がりを公が探っているなら、使い捨てできる手駒を方々に忍ばせておくのが得策。
「女官長は関わりがあったか」
「いえ。女官長からは何も。ただ宮女の身元を探っていた所…」
と、そこで何故か声は言い淀む。
「…どうした?」
「ルシアス様…」
「何があった?早く言わないか」
俺は答えを急かす。少しきつくなった俺の口調に『声』がひどく重い口を開く。
「その娘の後宮への後見人を調べました。落ち着いてお聞き下さい、糸口を巧みに消してはいましたが、“あの方”…ローディア伯爵夫人、ザビーネ様に間違いないようです」
「!」
聞いた瞬間。俺は弾かれたように顔を上げ、我が耳を疑う。
心が凍てつき自分の血の気が引いていくのが判った。
『声』は続ける。
「ローディア伯はエルンスト公爵家に夫人と共に身を寄せて居るようです」
「…確かか」
俺の声は、震えていただろう。
「…はい」
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