第54話

「食事を終えられたら今日はもう安静にされてください」

手当てをしたとはいえ。傷を負った身だ。公爵夫人の部屋を訪ねた時よりも恐らくは傷の痛みは強いはずだ。休ませた方が良いに決まっている。

だが、主は返事をしたものの、俺の前を動かず、その場で苦笑する。

「ティレージュ様?」

「…心配性だな、ルシアスは。お前の方が傷は深いのに。傷をつけた当人が言うのも可笑しいが安静にするならお前も同じだ」

そう言ってもう一度俺に微笑んでみせる。機嫌のよい証拠だ。ベアトリスの事で何かしら思うところはあったものの、今朝の試合は先程主が自室で告げたように、彼を満足させるにたるものだったのだろう。

「食事が終わったらお前も自室で休め。何かあれば侍女を使いにやる」

「はい」



四半刻(約三十分)後、部屋に戻ると。

自分の体が思ったよりも疲れていることに今更ながら気づいて俺は苦笑する。

「…お見通し、か」

椅子に腰を落として呟く。

どうやら主のいう通りにしたほうが賢明らしい。

気分的には大丈夫でも、明日からまた主を護れなくては元も子もない。

身体を休ませようと寝台のほうへ歩みを進めようとした時だった。

ふと窓の外をよぎる影。俺は身体の向きを変え、窓へと歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る