第53話

主は背後を見やる仕草をしながら言う。

「宮廷雀は俺を恐ろしいと言うが俺からすれば母上の方が余程恐ろしい」

微かについた主のため息は母の叡知に己が届かぬ悔しさの現れか。

俺は主に声をかける。

「奥様に勝てるお方は少なくともリュティーリア公爵家の中にはいないのでは。恐れながら公爵様ですら、手のひらの上で転がされておられる時が。…昨日の登城前に奥様に言われたティレージュ様のお言葉をお借りすれば奥様が『敵』ではなく、こよなくご子息を愛されている『お味方』である事は何よりも幸いですよ」

すると、主は足を止め、くるりと振り返る。

「お前は母上びいきだからな」

「そんな事は」

「…そして母上もお前びいきだ」

主の素直な声が心に響く。

「母上は多分、お前を俺の単なる影としてみた事は一度もない」

そう言って、ふっと微かに息を継ぎ、俺を見上げる。

「恐ろしいけれど、母上のそのお気持ちだけで、俺はあの人を尊敬できる」


何か、言葉を続けようと思ったけれど。敢えて俺は続けなかった。今朝から今迄の出来事で俺の受け取ったこの想いを簡単に口にしたくはなかったからだ。

だからそれには触れず、ありきたりの言葉を口にする。

「お部屋へ参りましょう。直ぐに侍女も参ります」

「ああ」

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