第52話

主は、そうきっぱり言ってのける。

夫人はしばしの沈黙のあとに。


「良くてよ。ルシアス、あなたもそれでよいかしら」

「はい、奥様」

俺が微笑んで頷くと。

「確かに少し、やり過ぎね。いいでしょう。私からもそれとなく注意をしておきましょうね」

「身の程知らずをわからせて頂けると?あれはお母様の侍女ですよ」

「……ティレージュ」

「私に言い返すという事は。貴女を最上とあおいでいるから、上からものを言ってさとして構わないと思っている。私は貴女を敬愛しておりますが、貴女の子だからと軽んじられるのは心外です」

強い、強い物言い。

奥様の眼の色が、ほんの少し、変わる。

「わかりました。それとなくではなく、きちんと注意をさせましょう。

……今日の事は二人とも気にやむ事はないわ。男の子がやんちゃなのは当たり前ですもの」

「母上、私はもう十九ですよ。ルシアスは二十六です」

「私にとっては可愛い子供達よ。まだ当分の間はね」

夫人の表情がまた変わり、俺達二人に向かい肩をすくめて見せる。

「母上」

「只、家の外では余りやんちゃをしないようにね。ルシアスがいるから大丈夫だとは思うけれど」

…果たして夫人の耳には何がどこまで伝わっているのか。マリエットの報告など雑音に過ぎないが、夫人の『目』となり『耳』となるものは多かれ少なかれいるのだろう。

「でもまあ、とりあえずは貴方達、お腹は空いてなくて?」

そういえば。朝から二人とも何も食べていなかった。主と俺は顔を見合わせる。その事に思いも及ばなかったのだ。

「お部屋で待っていなさいな。何か運ばせるわ。大丈夫よ、ベアトリスとは別の娘に運ばせるから」

優しく夫人は微笑む。

その微笑みに今は甘える事にして、俺と主は夫人の部屋を退室する。

歩き出しながら、

「…恐ろしい母上だ」

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