第45話
この手合わせの中では、彼と出会って以来初めて護る者と護られる者の鎖を外した。主もまた、ただ純粋に俺の技に己の剣をぶつけ、吸収しようとしていた。周りを気になどしなかった。それを忘我と呼ぶのならそうかもしれない。
「無礼は承知。お二人の剣気に怯えている暇はありませんでした。それよりも早く手当てを」
ベアトリスは眉根を寄せる。
俺は主を見る。彼のシャツの左腕の辺りに軽く血が滲んでいた。そして怪我こそ無いが右の襟元が切り裂かれたようになっていて、剣を合わせたときの拳の衝撃からか右手の甲が赤く腫れている。
俺はといえば。
左の肘と肩の切り傷。
確かに手当ては必要だった。だが。
「お前の役目を果たした事に関しては礼を言っておくが。手当てはこちらでやる。…下がれ」
主は冷たく彼女の申し出を切り捨てる。
「…でも、お二人ともお怪我をされているこの状態では」
ベアトリスは束の間食い下がる。
しかし。
「下がれと言ったのだ。…聞こえなかったか?生意気な。手当はこちらでやる。だがお前は要らん。仕えるはずの俺の言葉を無視する不忠者など、見たくもない。
俺は今、本当に機嫌が悪い。刻まれないうちに…早く立ち去ったほうが身の為だ」
「…っ!」
芯から凍るような主の声は俺でさえ久しく聞いていないものだった。
ベアトリスは主の言葉に息を呑み、主から当てられた怒気に知らず知らず身体を震わせながら、それでも、一礼して下がっていった。
「…何者だ、あれは」
主が呟く。
「さあ…俺も、一度奥様のご用の時、顔を会わせただけで詳しくは…」
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