第44話

主の声は低く、その機嫌を表す様に冷たいものだった。

「余計な口出しだとは思わなかったか?」

せっかくの打ち合いを途中で止められたのだ。俺もまた同じ気持ちだった。

だが、他の者なら震え上がるだろう主の台詞にベアトリスは少しも怯まなかった。

「私は近いうちにヴィットリオ様の側仕えとなる事が決まっておりますゆえ、当然の事をしたまでです。…やはり、お気づきではないのですね、お二人とも」

「…何を言っている?」

ベアトリスは主の言葉には応えず、俺に近づき、俺の肘の辺りを押さえる。

「…っ!」

瞬時に痛みがそこに走る。

眼をやると袖に微かな破れと滲(にじ)んでくる血の染み。

「私、しばらく見ておりました。一目みて真剣勝負と分かり、お二人のお望みであれば口出しすべきでないと思いましたが」

そこでベアトリスは一つ呼吸を置く。

「剣を持つ者は手合わせの際、相手次第で忘我の境に陥る事もあると言います」

確かに、聞いた事がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る