第43話
凛とした声だった。
俺と主が思わず向けた視線の先にいたのはブラウンの髪を三つ編みに結った若い娘。
背筋を伸ばし、迷いのない顔をして俺たちの方に近づいてくる。
「誰だ」
主の鋭い問いにも、表情を変えない。が、俺はその顔に微かな見覚えがあった。
「…ベアトリス?」
思わずその名が口から零(こぼ)れる。
公爵夫人が近々引き合わせるといった新しい侍女。だが何故今彼女がここにいて、俺たちを止めるのか。理由がわからず俺と主は顔を見合せる。
「…お久しぶりでございます、ルシアス様。ヴィットリオ様、お初にお目にかかります、ベアトリス=ノーチェスと申します。お引き合わせの場を待たずに参りましたご無礼お許し下さい」
一礼してから彼女はもう一度口を開く。
「お二人とも気づいていらっしゃいますか?…周囲に」
言われて。軽く周りを見ると。屋敷の裏庭に面する柱の陰から、女中達が何人か怯えた顔をしてこちらを窺(うかが)っている。
「下働きの娘たちが呼びに来たのです。私が奥様の朝のご用意をしている最中に」
静かにベアトリスは続ける。
「若様とルシアス様が朝食も取られず、剣の鍛練をされている。いつもならばお声をおかけするのだが、今日のお二人には恐ろしくて声がかけられない、と」
「…それでお前が来たわけか?」
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