第42話

主の眼は獲物を狙う鷹の様に細められ、俺の次の技を探っている。

「…っ」

無言でまた打ち合いが始まり、お互いの隙を探り合う。

…あの襲撃は失敗に終わったが、何かの『扉』を開けることには成功したのかも知れない。真剣勝負の打ち合いのなか、ふとそんなことを思う。

平穏な日々の中で己の存在意義を確かに見失いかけていた。

が、俺には守るべきものを護れる力があったのだと、改めて気づかされた。

主の眼差しに気づかされた事ではあったが。

打ち込めば打ち込むだけ主は俺の剣技に応え、俺もまた主のそれに応える。

お互いに息は上がってきているが、二人ともやめるつもりはない。

知らず知らずにお互いが笑みを浮かべていることに二人とも気づいていた。

本気を出すわけにいかない、そう思っていた事が愚かしい。

主の実力は知っていた。けれどお互いが自制心という名の箍(たが)を外し、対峙した時、己が考えていた以上の主の成長を知った。今、この瞬間の打ち合いからも 彼は吸収しようとしている。

だからこそ、俺も手を抜くわけにはいかないのだ。


しかし。不意にその場に響いた女の声で、俺と主の打ち合いはあっけなく終わりを告げた。

「もうおやめ下さい、ヴィットリオ様、ルシアス様」

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