第40話
「昨日はマリエットに邪魔されたからな。…時間はたっぷりとある」
俺の肩に手をかけ、挑むような眼をする主。こういう時の彼は年齢通りの十九に見える。
だがそれは言わない。剣の事に対しては子供扱いする気かとむきになるのを知っているから。
「お相手致しましょう」
「…手加減はするな?昨日のお前をそのまま出せばいい」
主の負けん気は人一倍強い。貴族の子弟としては十分過ぎる程の剣技の持ち主なのだが、それに満足をしないのだ。
だからこそ鍛練のしがいがある。
「…御意。支度をしてから参りますゆえ、こちらでお待ち下さい」
「わかった」
俺は主に一礼し、扉の外に出る。
自室に戻り、着替えをする。
いつもは鍛練の時にいちいち着替えたりはしないが、今日の主の様子からすれば着替えておいたほうが得策。
とはいっても、いつもより若干袖口に絞りが入った青いシャツに、黒いニノ(この国においてのズボンの呼び名)、グレーのベストというシンプルなものだ。
けれど俺がこの類いのシャツを鍛練で身に付けるのは稀な事。自然と己の心にも 喝(かつ)が入る。
自室に置いてある鍛練用の剣を二本手に取り、主の部屋へ向かう。
…主は、扉の外の壁にもたれ、俺を待っていた。
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