第31話

時々突拍子もないことをさらりとやってのける方ではあるが。とても十九とは思えぬ落ち着き、冷徹さで物事を見据えるときも有れば、こうした悪戯めいた事を仕掛けてくる事もある。公爵家の外で仕掛けてきたのは初めてだが。無意識に手を動かしリボンを巻き取りながらそこまで考えて。

俺の頭の中にある考えがふいに浮かぶ。自然に視線がカーテンの方へ向かう。意識はその向こう側の主へと。

「…もう“その話”はするなとご自分でおっしゃった癖に」

俺の低い呟きはおそらくアルフォンソ殿しか聞きとれなかったろう。

浅はかな考えかもしれない。

うぬぼれかもしれない。

だがあの方ならば、やっても不思議ではない。

主と共に登城した後も密やかに引きずっていた今朝からの想いをこの悪戯(いたずら)で流そうとされたのか。

お前への意趣返し(仕返し)は今したから忘れてしまえと。

「…ルシアス殿」

姫と宮女の会話の隙間を縫って、アルフォンソ殿の声が耳に届く。


「ヴィットリオ様は、お優しいかたですね」

「…ええ。」

「うちの殿下もお優しいですが、ヴィットリオ様より歳をとっている分…面倒臭い」

「アルフォンソ殿」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る