第29話

やがて。主は何事かを思い付いたようにスッと席を立つとレナード様のもとへ近づき、長身を屈めて耳打ちする。

殿下は初めきょとんとしていたが、すぐに肩が揺れだし、笑いをこらえているのがわかった。

「素晴らしいよ、さすがはティレージュ。なかなか思いつかない。」

そう言ってからまた笑いだす。

「しかし、そんなことをしてお互いあとが怖くないかい?」

「それは…お互いの腕次第」

そして。主が俺を自分の方に呼び、レナード様がアルフォンソ殿を己の方に呼ぶ。

数十秒後。俺達が顔を見合わせたのはいうまでもない事だろう。



「まあ、ルシアス様、お上手ですわ?そうじゃないこと?」

「…そうですか」

「ええ、本当に」

「アルフォンソ様、少し早いですわ」

「…難しいものですね」

お互いの主に呼ばれてしばらく後。レナード様や主のいる隣の部屋で俺とアルフォンソ殿の周りを囲んだのはアンジェリーナ様とお付きの宮女達だった。

彼女達の前には色とりどりのレースリボンが巻き取られる前の長い状態で籠(かご)に入っていて。先ほどから俺達はそのリボンを紡ぎ棒に巻き取る役目を引き受けている。

「着替えていてお兄様から連絡がきた時、偶然アナスタシアが同じ部屋でレースリボン巻きをしていたの」

内親王のお声は弾んでいる。

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