第28話

それまで黙っていたレナード様は話を流そうとしているティレージュ様に合わせる事に決めたらしい。

「それではお兄さま、また後で」

「ああ、いっておいで」




「すまん!ヴィットリオ殿!」

アンジェリーナ様が扉の向こうに消えた後、リヒャルト様が謝ったのは何故かレナード様ではなく我が主にだった。

「謝って頂かなくてもよいですが、秘密厳守の妓女(宴席の為に呼ばれる専門の女性、宴で見た事聞いた事の一切の口外を禁じられている)ならばともかく、姫君の前で具体的な名前は出さない方が得策」

主の声は淡々としたものだったが、

「男だけの宴席の弊害だな。つい見知った者が来ていると気を抜いてしまった。一人の時は姫の前であのような」

これでは噂好きの宮廷雀と同じだとマルクス様も頭を抱え、反省しきりの様子。

「でも」

そんな二人を見ながら、主はふっ、と眼を細める。興味を示した時の主の癖だ。

「…確かに気になる話題ではありますね。…内親王様の前で話すのでなければ」

「…ヴィットリオ殿?」

「さて、どうするか…」

茫然としている周囲を他所目(よそめ)にじっと何かを考えている。

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