第21話

親王の眼をしっかりと見てその視線を受け止め、冷たいおもてのまま主は吐き捨てる様に言葉をつむぐ。

奔放ほんぽうな殿下に付き合っているのはひとえに陛下や王后殿下の御為」

ここにはいらっしゃらない、陛下と王后殿下に一礼の真似事までしてみせる。

先ほどからの主の言動は臣下としては無礼極まりない。

だが親王殿下はとがめもせずに笑い出す。

「この私にそこまで言うとは…えない主従だな」

め言葉だと受け取ってあげましょう」

「それは有難い」

止めなければいつ果てることなく続くだろう言葉の応酬おうしゅう

けれど。

敢えて俺はそれを止める。

「そろそろ参りませんか?他の方々もお待ちでしょうし、これ以上はアルフォンソ殿がお気の毒です」

「そうだな。この方は侍従泣かせだから。確かに、アルフォンソの心中が思いやられる」

少し底意地悪く主は肩をすくめて言うが、さすがは年長者。殿下は主の挑発に乗る事なく、何でも無いことのように答えを返す。

「…あれは泣きはしないさ、ただこの私にたちの悪い八つ当たりをするだけだ」

「おお怖い、八つ当たりのくわがし事(詳細)など知りたくもないが」

「本当に厳しいね(笑)」

いつの間にか二人は歩きだしている。

俺はその後ろに付き従いながら以前に聞いたアルフォンソの言葉を思い出す。

『あの方は“風”だから』

気ままに吹く風を止めることなど出来はしない。優しげな口調と裏腹にその眼の光は強いものだった。彼は親王の全てを受け止め、穏やかさの裏に親王のためならばその手を血に染める事すらいとわない覚悟をしている。

対して、主が普段は見せない感情を誰かに見せるたびにこの頃、俺の心は騒ぐ。それは城への登城が増えるたびに心の中に積み重なる。

俺はまだ半人前なのだ。善きにつけ悪きにつけ。


「…シアス?ルシアス!」

俺を呼ぶ主の声ではっと我に返る。

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