第20話

主の言葉に親王はあゆみを止めて振りかえる。

「貴方のバカさ加減を吹聴するための道化役者扱いはいい加減願い下げです」

「…三文芝居の、道化役者ピエロねぇ?…相変わらず、お前の主は厳しいな、ルシアス」

親王は主の後を歩く俺に先程までの軽薄さを消した笑みを浮かべてみせる。

しかし、俺は。

「…おそれながら、殿下。我があるじの言う通りかと」

そう答えを返す。

「おやおや」

「親王殿下の“気に入り”の役など演じたくもない。はっきり言って迷惑極まりない。貴方あなたはよろしいかもしれないが、付き合わされるこちらはたまったものではない、なあルシアス」

御意ぎょい

俺は主に頷く。

「お二人が揃えば目立ちます。…良い意味でも悪い意味でも」

「誘いに越させるならばたまには侍従でもよいものを」

まるで騒がしい宮廷雀に見せつけるように。己自ら迎えにくる。その事を言外に匂わせる主に。

「アルフォンソかい?今頃首を長くして我々を待っているよ」

「我々を?」

親王殿下の言葉を主は鼻で笑ってみせる。

「フラフラさ迷い歩く、はた迷惑な主人、の間違いでは?」

主の言葉は刃の様だ。只、本当に憤った時の彼は寡黙になるのでまだそれほどの怒りではないと知れる。

怒りというよりも主の癪に触っているのは只一つ。

「何を考えておられるかは解ろうとも思いませんが、こまにされるのは嫌いでね」

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