第18話

俺の声に少し頷きながら前に出て、主は親王に向き直る。眼を細め、眉根を寄せた主の表情は酷薄そのものだった。

通常、少なくとも王の息子である親王に対して(幾ら血統が近かろうとも)臣下が向けるべき表情ではない。

「陛下からお聞きしました。またお母上に無理を言ったとか。大目にみてやれとの陛下のお頼みですが度が過ぎます」

だが、

「父上が?愛されてるなあ、私は」

目の前の親王はのんびりとそんなことを言ってみせる。

「呆れられている、の間違いでは?」

「冷たいなあ。やっと夜の宴に呼べる歳になったから一緒に遊びたくて呼んでいるのに」

「…遊びたくて?殿下のお歳は確か」

「ティレージュの九つ上でルシアスとは二つ違いだから二十八かな?」

「ルシアスより年長には…到底見えませんね」

間髪入れずに主は言う。

「…ティレージュ様!」

「本当の事だろう。レナード殿下。何回目だと?」

「さあ?…ティレージュ?あまり怖い顔をするとせっかくの美貌が台無しだよ」

「…ちっ!…」

あからさまに舌打ちする主。

先程の表情同様、臣下としてはあるまじき無礼だが、親王殿下は笑みを浮かべたままだ。

肝の座っていると言うか、底が知れないというか。

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