第17話

王室の催事係に今日の宴の事を確認して来なくては、と扉に背を向け、眼を上げた時だった。

前方からこちらに歩いてくる、一人の男と、眼が合った。

「ルシアス~」

ひらひらと手を振りながら彼は声をかけてくる。

思わず上げた視線を戻しそうになるが、真正面から来られてはそうもいかない。


「レナード親王殿下…」 

こたえた声は若干素っ気なかったかもしれない。

「…相変わらず、地の底を這うような声を出すねぇ」

「申し訳、ありません」

「まあ、慣れてるけどね。主殿は執務室なかかな?」

「…はい」

嫌な予感がする。

おそらくは催事係に聞きに行くだけ無駄だろう。

目の前に立つ黄金の髪、エメラルドの瞳の彼の満面の笑顔がそれを物語っている。

「父上や母上のお気に入りだからね、『彼』は。今日の宴も母上に随分と無理を言って譲ってもらったよ」

やはり。当たって欲しくない予感ほど当たるもの。主の心底嫌そうな顔が眼に浮かぶ。

「またですか。ついこの前の宴の時もそうおっしゃいましたが」

「そうだったかな?」

素知らぬ顔でとぼけてみせる彼にこめかみのあたりが痛くなる。

「親王殿下」

その時。

背後から聞こえた声に俺は振り返る。

「全く、りないお方だ」

「ティレージュ様」

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