第16話

最もこちらももう慣れたもの、よほどの事がなければ宮廷雀達のれ言など心の片隅にも残さない。

…我が主に淡い恋心を寄せるご令嬢方には申し訳ないが。

「ティレージュ様」

城内に入り、前をゆく主の周囲にそれとなく気を配りながら声をかける。

「なんだ」

「本日は陛下とのご謁見の後、宴があるようなのでお待ちする間に聞いて参ります」

儀礼通りだが一応は伝えなければならない。

「ああ、頼む」

返ってくる、簡潔な返事。

主の返答の短さで彼の機嫌の良し悪しは大体判断できる。

あまり良くはない。

だが例え昼間の事があったとしても、この若き主が、宮廷に伺候の際、上機嫌だった事などないのだから、これで普通だともいえる。

「行ってらっしゃいませ」

「うむ」

『影』は、常に対象者の側に付き従うが、例外が陛下との謁見時だ。

陛下との直接謁見ができる者が貴族の中でも限られている事、陛下に付き従う王室の護衛は謁見者をも見守る事になるので、自らの護衛を連れて入るのは陛下を疑うことにもなりかねず、失礼とならぬよう遠慮するというしきたりなのだ。

直接謁見が可能かという部分では俺の出自である伯爵家は適正に該当するのだが。『影』としての職務上、遠慮させて頂かざるを得ない。

「さて」

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