第13話

公爵夫人は聡い方だ。息子の気性など知り抜いている。だからこそ俺も奥様に誓うのだ。

主の全てを護る事を。


「さて」

自室に帰り手早く着替え、剣をつける。上から長衣ローブを羽織れば仕度は終わりだ。

その他の準備を整え、主の部屋の前に着くと丁度主が支度を終え出てきたところだった。

先ほどまでおろしていた銀の髪を肩口で緩く結び、漆黒の長衣に身を包んでいる。

主の登城する日には王宮に令嬢達が増える、そんな噂にさえうなずくような美しい姿。

「ゆくか」

「はい、馬車の支度したくも終わっております」

「ご苦労」

苦労などと思うわけがない。

だが敢えてその言葉をかけてくれた主の心根が嬉しかった。



「供の者に急がせましたゆえ四半刻(三十分)もあれば着きます」

馬車が屋敷を出た時には夕闇がうっすらと迫っていた。彼方に見える王城にも燈が灯っている。

「別に急ぐ用もないが。遅れたら遅れたで宮廷雀がうるさいからな」

「…ティレージュ様がお気になさる必要はございません」

俺が言うと、主は、

「つけこむ隙はみせぬほうが良い、どんな事にもな」

言って、そのまま窓から見える景色に視線を移してしまう。

他の者から見れば、いつもの酷薄で皮肉屋な主に見えるだろう。

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