第12話

俺は主が己の母に対して、高貴な出にそぐわぬ皮肉シニカルさ、それを内に秘めるしたたかさから共犯めいた尊敬を抱いている事を知っているので平気だが。

「では、そろそろ母上」

主がソファから立ち上がる。

「行ってらっしゃい。ルシアス、いつものことだけれどヴィットリオをお願いね」

「…お任せ下さい」

公爵夫人に一礼を返し俺は扉に向かう。

主は振り向きもせず前を行く。

「ルシアス、部屋に寄る。お前も着替えて扉前でいつものように待て」

「はっ」

「面倒臭いが何かと小煩こうるさ宮廷雀きゅうていすずめどもの噂の種になるのも腹立たしい。着替えてからゆく」

「お待ちします」

そう答えた後。

「…先ほどは、申し訳ありませんでした」

俺は謝罪を口にした。が、

「謝る事はない」

彼はそう俺に言葉を返す。

「…もう、その“話”は 終わりだ」

「はい」

それに頷き、主が部屋に入るのを見届けて俺も自室へときびすを返す。

宮廷に行くのは俺も気が重いが、影としては当然の務め。

特に今の王城には、先ほども述べたように父や公爵の時代にはなかった空気があるのだ。

公爵夫人が言った、息子をお願いね、の意味もそこにある。

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