第11話

「もうお耳に入りましたか」

「あれだけ、はしたなく騒いでいればね。私の周りには慎み深い者も多いから」

公爵夫人の声が少し曇る。

「本来の『仕事』に戻ってもらおうかしら。この間から屋敷の細々とした仕事をして貰う下働きの娘さんをみつくろっていてね。その子達の教育係にでも。…馴染みがいいからと貴方達をずっと任せていたけれど、少し度が過ぎるわ。何度周りから忠告を受けても己の身をわきまえて長子の『影』を敬う事も出来ていないようだとの報告も、あまりに頻繁では考えざるを得ないわ」

音もなくティーカップをテーブルの上の更に戻しながら公爵夫人は眉を寄せていた珍しく険しげな表情を元の笑顔に戻す。

事も無げに夫人は言うが、マリエットにとってそれは左遷。家を継ぐべき者の世話を外されるというのはそういう事だ。最も、彼女にそれが理解出来るかは怪しいが。

「…代わりにベアトリスを貴方たちに付けましょう」

「…ベアトリス?」

「確か奥方様の一番のお気に入りの」

主の疑問にかぶせるように言った俺に。

「…よく覚えていること。ルシアス」

顔までは覚えていないが、一度公爵夫人の言伝ことづてを伝えに来た娘だ。確か主より一つ年下。言葉少ないが、利発そうな娘だった。

「母上のご推薦ならば異存はありません」

「近いうちに引き合わせるわ。…ヴィットリオ、それで良くて?」

「ええ。…全く、母上、貴女だけは敵に回したくないものだ」

「あら、人聞きの悪い」

お互いに微笑みを浮かべたままの会話。

しかし、他の者が見たならば一瞬で肝が冷える。

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