第7話 初めての友達と帰る道

十二時───


 ──キーンコーンカーンコーン…

 ──キーンコーンカーンコーン…


 五年生始まって初日の為、始業式が終わってから、学級活動という時間が三時間続けてあり、全員での自己紹介や、学級委員、各種委員会のクラス委員、クラス内の係を決めて午前中の授業は終わってしまった。

 どうやら、教科では分類出来ない事を学級単位でするときに、学級活動が割り当てられるのだと、お兄ちゃんから聞いた。高校ではLHR《ロングホームルーム》という名称の授業が、それに近いともボクが高校に進学するにあたって、教えてくれた。


 「ねぇ…?高橋さん。」


 「どうしたの?望月さん。」


 一度、教室の左前の席へと、教材を起きに行っていた担任の先生が教卓の前に立った。


 「はい。帰りの会始めますよー?おしゃべりは後にして、席戻ってー?」


 初めての給食が食べられると思って、この日のボクは朝からワクワクしていたのだが、なんと初日は四時間の給食なしの授業で、非常にガッカリした覚えがある。

 いつの間にか担任の先生は、出入り口側の教壇の端の方に立っており、帰りの会の当番である日直の二人が教卓の前へと、少し距離を開けて並んで立っていた。


十分後───


 「帰りの挨拶。起立!礼!」


 「さようなら!!」


 「みんな、忘れ物ないようにねー?」


 ──ガラガラッ…


 担任の先生がそう言いながら、教室の前方の扉を開けた。朝の会と帰りの会があるのはアニメを見て何となくは知っていたが、実際経験してみて、ようやく小学生になったんだなと実感が湧いた。この日の授業が、授業らしい授業ではなかったからかもしれない。それと、急に教室内がこの日で一番くらいガヤガヤし始めた。


 「高橋さん!!それでね…?」


 「わぁ?!びっくりしたぁ…。」


 急にボクの真横から、望月さんが割と大きめな声で話しかけて来られたので、思わず魔族の力を使いかけた。ボクは足早に教室を出ていく子、同じクラスになれたことを喜びあっている子達、担任の佐野先生と話を始める子など様々いて、その様子を観察していたのだ。


 「びっくりさせて、ゴメンね?高橋さんは、一緒に帰る人居るのかなって…。」


 お兄ちゃんから『春花は、新入生じゃないから、流石に五時間目まではあるだろ?』と言われて家を出てきた。その為、芙由香さんにも『帰りは、十五時頃だと思います。』と言ってきている。


 「良かった!!ボク、今日“きゅうしょく”も五時間目もあると思って、出てきちゃって…。」


 「じゃあ…高橋さん、私と一緒に帰ろ?」


 ──バンッ!!


 「え…?」


 右を向いて望月さんと話していたら、急に前の方から何かを叩いたような音が聞こえた。思わず前を向くと、鈴木くんが教卓の天板を手で叩いたみたいだった。


 「高橋さん!!俺も、一緒に帰りたいな!!」


 「うん。二人とも、ボクと一緒に帰ろ?」


 その時のすごく嬉しそうな鈴木くんの表情と、その鈴木くんを見て不機嫌そうな望月さんの表情は凄く対照的だった。


十分後───


 鈴木くんと望月さんと帰ることになり、そこから帰り支度をして、ようやくボクたちは小学校の正門を出たところだった。


 「ボクはあっちから来たんだけど、二人は?」


 「お、俺も高橋さんと、同じ方角だよ。」


 「私も、そっちの方向から来てる!!」


 日本語は同じ意味なのに色んな言い方があって、最初の頃は理解するのが大変だった。


 「そうなんだ!!良かった!!」


 ボクたちの帰り道は歩道が狭いので、小学生が二人並んで歩くのがやっとだ。朝、お兄ちゃんに連れられて歩いた時は、ボクを先頭に背後にお兄ちゃんがくっついて歩いてくれていた。今思うと、ボクの歩幅に合わせて歩くのは、結構大変だった筈だ。

 話を戻すと、どちらかがずっとボクの隣だと不公平になるので、歩道の切れ間で交代するルールで、望月さんは何とか納得してくれた。鈴木くんの方はというと、『高橋さんと帰れればいい。』と言ってくれて、物分かりが良さそうにボクは感じた。


 「そう言えばさ…?高橋さん、家に帰ってもお昼あるの?」


 「あ…。ボクの家、誰も居ないかも…。」


 「高橋さん、私の家くる?」


 はじめに言い出したのは望月さんだったのだが、鈴木くんは少し悔しそうな顔をしていた。


十分後───


 「ちょっとママに聞いてくるから、高橋さんは待っててね?」


 「む、無理しないでね…?」


 ──バタンッ…


 「俺!!どうなのか分かるまで、高橋さんと待ってるぞ?」


 ボクたちは望月さんの家の前まで来ていた。場所的に言うと、ボクの家から更に北へと住宅街を数分程歩いた所にあった。外観はカクカクとした四角で、コンクリート打ちっぱなしの三階建ての一軒家だった。


 「高そうなお家だね…。ボクの家なんて、ザ・“しょうわ”だよ…。」


 この時のボクは、お兄ちゃんがよくザ・昭和と言って笑いを取っていたので、真似して言ってみたのだ。


 「高橋さんちもそうなんだ?!俺んちもそうだよ?なんか、気が合いそうだね?」


 ──ガチャッ…


 落ち込んだような表情の望月さんが、玄関のドアから出てきた。


 「ごめんなさい。初めて会った子には、ちょっと無理って…ママが。」


 後で分かったのだが、相当に裕福なご家庭で、この頃の望月さんは、母親から厳格に育てられていた。


 「ほらな?俺、帰らなくて正解だろ?じゃあ、高橋さん行こうぜ?」


 「望月さん?ボクのために聞いてくれて、ありがとうね?」


 鈴木くんが歩き始めてしまったので、ボクもその場には留まれず、後を着いていくしかなかった。


 「本当に…ごめんなさい。」


 「気にしないでねー?」


 謝る望月さんを背にして、ボクは後ろ手で手を振ると、鈴木くんの後を追って歩き始めた。


数分後───


 「あれ…?」


 「ん?高橋さん、どうした?」


 凄く見たことのある風景が、ボクの目の前には広がっており、思わず声が出てしまった。


 「えっと…ちょっと着いてきて?」


 「おう…。」


 「ここ、ボクの家なんだけど…。凄いご近所さんだったんだ…鈴木くんって。」


 本当にボクの家の裏手の方にある、いつも見ていたお宅が鈴木くんの家だったのだ。


 「え?!ちょっと待って!!そこは、芙由香さんと、真登兄ちゃんの家なんだけど…。ええええ…!?」


 「恵斗!!あんた、大声でうるさいでしょ?えっと…あなたは、恵斗のお友達かな?」


 「はじめまして。ボクは…裏に住んでます、高橋春花です。」


 凄く綺麗な顔立ちの女性だが、シャギーカットの髪は白金色に脱色されており、両耳にはピアスが複数付けられている。背はお兄ちゃんくらいありそうなくらい高くて、骨格タイプはストレートで引き締まった身体つきなのに、胸はかなりグラマラスだ。肌はイエベ系で薄い黄色系の白い肌をしていた。


 「裏…?高橋?ってことは…芙由香さんのお家だし…。えっと、春花…ちゃんで良いのかな?その感じ、芙由香さんにそっくりだけど…。」


 「お母さん!!春花ちゃん、今日お昼あると思って学校来ちゃったんだってさ?良いかな?」


 この時初めて、鈴木くんがどさくさ紛れに、ボクのことを下の名前で呼んできたのだ。


 「芙由香は…ボクの義母で、真登は…ボクの義兄です。両親をなくしたボクを、母方の親戚の芙由香さんが引き取ってくれたんです。」


 「なるほど…。親戚のお子さんを…。うん、娘って言っても通用すると思う。それくらい、春花ちゃんは芙由香さんに似てるけどね?じゃあ、もう春花ちゃんは、私達とも家族も同然ね!!」


 そう言うと鈴木くんの母親はボクの手を取ると、家の方へと歩き始めた。

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