第1章 小学五年生【地球の危機編】
第6話 編入初日の出会い
六年前、四月六日(金曜日)────
キミに拾われ家族になったあの日からもう、二週間程経っていた。恐らく女神のチート的な改竄能力で、この日からボクは市立賤宮南小学校の五年生として編入することが決まっていた。
とりあえず、キミと付き合うまでは、ここではお兄ちゃんと呼ぶことにする。
「おーい?おはよう?春花。起きろよ?」
ダブルサイズのベッドの上で、微睡むボクの真横から、そんなお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「ん…っ。お兄ちゃん?おはよう。」
目を開けると、カーテン越しにではあるけれど、もう外は夜ではないと分かる程の明るさになっている。
何故、ボクがお兄ちゃんと同じベッドで寝ているのかについて説明しておこう。あの後、女神が帰ってからだったが、ボクの部屋についてどうしようかという話を、芙由香さんとお兄ちゃんがし始めた。
使われていない部屋があった為、その部屋をボクが使えば良いという話だった。ところが夜になって、ボクが寝る用の布団一式が無い事に芙由香さんが気付いた。
すると、『そうだ!!真登くん、春花ちゃんをお嫁に貰うんでしょ?だから、今のうちから春花ちゃんに慣れて貰う意味も込めて、一緒の部屋で生活すれば良いわよ!!」という芙由香さんの一言で決まってしまい、それは六年経った現在まで至る。
この夜のお兄ちゃんは、急に一緒のベッドで寝ることになったせいか、凄いぎこちない感じだったのを、ボクは今でも覚えている。
「今日から、ボクは“しょうがくせい”なんだよね?」
「ああ。愛上さんのおかげで、色々近所の人たちからさ?ランドセルとかお古貰ってきただろ?」
一応、お兄ちゃんには、ボクが別の世界からやって来たことだけは言っておいた。そうでも言っておかないと、この世界の知識が全く無いボクにとっては、色々とフォローがないと生活していくのは難しいと思ったからだ。
お兄ちゃんはラノベと呼ばれる非現実的な物語が書かれた本が好きなようで、夜寝る前にベッドでその話をした時も『春花、異世界転移してきたんだな!!』と嬉しそうだった。でも『てことは…さ?春花は、ハーフじゃないんだろ…?』と考え込んでしまったので、『元いた世界でも、ボクはハーフだったよ?』と言ったら、何故か納得したようだった。
「お兄ちゃんは、ボクのこと心配じゃない?」
「そりゃ…心配してるさ。春花と同じ年頃で…良いヤツ絶対居るだろうしな?」
小学校に通い始めたら、ボクが他の男の子に取られるんじゃないかと、お兄ちゃんはずっとそんな話を、前日の夜寝る時までしてきていた。身体はボクより大きいけれど、お兄ちゃんもまだまだ子供だなと、可愛く思えてしまう。
「もう!!大丈夫だよ?ボクは、お兄ちゃんしか見てないから!!」
──グイッ…
──ギュウッ…
「春花…。」
ベッドの上で横になっているボクを、お兄ちゃんは自分の寝ている所まで引き寄せ、抱きついてきた。もうこの家に来てから、こんな事は日常茶飯事で、流石に慣れてしまった。
そもそもボクは、生まれてから両親以外から抱かれた事は無かった。というか、孤児になったときにボクは、そういう感情を一切捨てたので、“災厄”と呼ばれるまでの存在になれたのだと思う。
だから、あの日お兄ちゃんに初めて抱きしめられた時、実はボクの中で久しぶりの感情が湧いてきていたのだ。
「もー。お兄ちゃん、心配し過ぎだよ?ボクの方こそ、お兄ちゃん格好良いから、他の女達に取られないか心配だもん…。」
よく考えてみたら、お兄ちゃんについての情報は背丈と、母方の親戚の芙由香さんに何となく雰囲気が似ているのと、男の人特有のモノが立派なくらいしか語って居なかった。お兄ちゃんの事を語ってしまったばっかりに、取られたら嫌だったからだ。
目の色は濃い茶色、髪の色も真っ黒ではなく焦茶色の長髪で、肌の色は芙由香さんの肌を少しだけ黄色味を増した感じで細めだけど筋肉質な体型をしており、顔は彫りの深めなソース顔なのがお兄ちゃんの特徴だ。
「そんなこと、ないと思うぞ?」
実際、お兄ちゃんが魅力的にはどうなのかについては、六年後の今の話ではあるが、お兄ちゃん目当てで家へ遊びに来ているボクの友人達から、黄色い悲鳴を浴びているのは事実だ。だから、当時のお兄ちゃんは高校では、女達からチヤホヤされていたに違いない。
今思い起こせば、この時のお兄ちゃんの返事は、言葉少なめだったのには、そういう背景があったのだ。悔しいがもう後の祭りだ。
一時間後───
何度かボクは、お兄ちゃんと芙由香さんに連れられて、家から賎宮南小学校までの徒歩での通学路の確認をしてきていた。その為、この日の初登校については、ボク一人で登校しようと考えていた。
でも、結局は県立賎宮高校が近くにある関係で、そこに通うお兄ちゃんが正門前までボクについてきてくれたのだ。その道中、高学年の女の子達が集団で、お兄ちゃんを食い入るように見つめ、頬を赤らめていたのが確認できた。明らかにお兄ちゃんがそこを歩いて来るのを知っていて、待ち構えているような様子だったのだ。
「今日から、このクラスの仲間になる高橋春花さんです。」
担任の先生からの紹介され、教室の教壇の上にボクは立たされていた。始業式が始まる迄の時間で、編入生を紹介する事になっていたようだ。
「編入してきました、高橋春花です。宜しくお願いします。」
髪の毛はまだまだ短いので、『ちょっとだけでも女の子っぽい印象をね?』と芙由香さんが、ボクにスカートを穿いていくようにと、何着も用意してくれたのだ。
そんなボクの格好を見るなり、クラスメイトの男の子達は、ヒソヒソと何か言いたげな様子だった。
「じゃあ、高橋さんはそこの机を使ってね?」
「はい。」
──ガタンッ…
教壇の上から降りたボクは、担任の先生の指示で空いている机まで行くと、椅子を引き出すと腰掛けた。
「では、あと十分くらいしたら、体育館に移動するので、皆さんそれまで休憩!!」
「はーい!!」
急に教室内がガヤガヤし始めた。生まれて初めての学校生活となるボクには全てが、目新しいのだ。とりあえず、学校というものがどんなものなのかは、お兄ちゃんに学園もののアニメを事前に見させられた為、大体は心得ていると思い込んでいた。
「なあ、高橋さん…。」
「えっと、どうしたの?」
さっきボクの方を見て、ヒソヒソ言っていた男の子だった。ツンツンした短髪にしょうゆ顔の端正な顔立ちで、筋肉質な体つきで背も高そうだ。
「いきなり…なんだけどさ?俺、高橋さんのこと好きだ!!ただ、それだけ言いたくて…。俺は、
彼こそ、お兄ちゃんの心配の種となる一人になっていくのだが、この頃のボクには知る由もない。それまで恋愛経験など、なかったボクだ。急に見知らぬ相手から好きと言われても、イマイチピンと来なかった。
「ちょっとー!!高橋さん、困ってるでしょ!?あっち行きなさいよ!!シッシッ!!」
隣の席になった女の子が、鈴木くんを追い払おうとしてくれている。セミロングの綺麗な黒髪で、前髪を作っており、目が大きくて可愛らしい印象を受けた。背はボクより少し大きくて、胸の膨らみもかなりあるように見え、ボクとは違い大人っぽい身体つきだ。
「えっと…。望月さん、だったよね?」
机の上に置かれていた座席表をチラッと見て、ボクはそう言って二人の間に割り込んだ。
「うん!!高橋さんって…ハーフなの?」
「俺も、それ気になっててさ?」
六年経った現在では
「じゃあ二人は、どっちだと思う?」
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