11. 真実

「『新たな時代を築く、真なる王アリシア・メル・ハーノイマン』です」


 この身に、この名に。


 私を信じる民たちに。


 恥じぬものとするために。


 厚い雲が割れ、光が差し込みました。


 暖かな日差しに照らされる大地を、一陣の風が撫でていきます。陽光を受けながらなびく忌みの青髪は、誰に、どのように見えていたのか。


「……やっと、見つけられたんだね」


 俯き、小さく落とされる『ユリウス』の呟き。


 弟の背を見送る、姉のような優しさは、ついと上げられた顔には無く。


 一息に立ち上がり、景気よく土埃を叩いて落として、再び王剣を構えます。


「勝ってお嫁に来てもらいますよ、姉様」

「勝ったら婿にしてあげなくもないですよ、ユリウス」


 軽口の応酬。


 売り言葉に買い言葉は上々。


 私もまた、相対して、変形させたレイピアを構え。


「「おお――」」


 咆えます。


 互いに地を駆け、真正面から。


 ぶつかります。二人力任せに振るう刃と刃。威力は相殺をもって弾かれ合い、次の剣戟へと導きます。斬って弾いて弾いて斬って、合間合間に槍を回し斧を叩きつけ、距離が開けば弓矢の連射をぶち込みます。流れるまま思うままに溢れる力をぶつけ続けて。


 ですが、自ずと悟りました。ジリ貧であると。決定打が不足しています。相手はあの化け物王子、戦いが長引けば私は敗北するという、そんな確定的な予感。


 ゆえに、勝利を引きずり込むためのもう一手を求め……左のポケットへ手を入れました。


 二本目の、棒金。


 本来は予備として用意していたソレを、握り込みます。


 無謀は重々承知。それでも、できるはずだと、そう思ったのです。


「私に――王の資格があるのなら」


 右手に槍。


 左手に斧。


 回し叩きつけを踊るように舞うように嵐を巻き起こすように。槍も斧も風を切る羽の如く重さを感じないのは、魔法具は使い込むほど馴染んで身体の一部となっていくと騎士たちから聞きましたが、それは確か自前の魔力を込めた場合の話ではありませんでしたっけ。


 まあいいです。思考を追いやれば眼前にはユリウスの凄絶にして満面の笑顔。楽しんでいるのだから応えねば。その瞳に映るもの凄い笑みはアリシアだったかユリウスだったかエリーだったか。どれとも似ても似つきませんねと、さらに吊り上がる口の端を自覚する間もなく。


 跳躍。大上段。


 叩きつける、二振りの戦斧に。


 ユリウスが、膝を折りました。


 勝機。項垂れる彼へ力任せに振り抜く右のレイピアはしかし刹那の反撃に打ち上げられて宙を舞います。追って叩きつける左は鍔元を的確に殴られて地面を転がります。


 おもてを上げるユリウスの笑み。


 地面スレスレから腰だめに引き絞られる王剣。


 相手が勝利を確信した、その瞬間こそが、最大の勝機である。


 ええ。


 知っていますとも。


 これ見よがしに打ち上げられた私の右腕。


 さりげなく引き抜いた、髪留め。


 手の内に、現れたるは。


クワ?」


「コレが一番、馴染みますね」


 無駄にはしません。


 王子であったこと、騎士であったこと、農民となったことまで。


 今この瞬間に至るまで、私が歩んできた道。


 その、全てが。


「――我が『偽姫の誇りノブレス・オブリージュ』なのだから」


 ただ真っ直ぐ、振り下ろすためだけに鍛えられた、鉄の刃。


 叩きつけます。


 剣よりも速く、ユリウスの脳天をぶち抜く一撃は。


「え?」


 つと漏れた困惑の声は……どちらのものだったのでしょうか。


 突如巻き起こった、炎の嵐。


 王剣が私の胴を薙ぐよりも、鍬がユリウスをぶっ叩くよりも、速く噴出した炎は確かに王剣の刀身から、私の芯骨を強かに打って焼いて弾き飛ばしました。


 至近、ゼロ距離からの爆撃剣。


「ああ――」


 力無く宙を舞う中で、己の敗北を確信し。


 でも、何故なのでしょう。脳裏をよぎる疑問の理由は二つ。


 ただ、とても心地よい満足感だけが、この身を満たしていたこと。


 もう一つ。


 地へ沈むまでに、見ていたユリウスの顔が。


 勝利の歓びではなく、困惑と後悔の悲しみに、歪んでいたことでした。






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