10. いつか
「……余裕が、ある?」
「――ッ!」
ユリウスの目が見開かれ、読めていた大振りを敢えて受け止めます。
……止まりました。レイピアを保持する右腕に僅かな痺れ。何度も受けられそうにはありませんが、刀身は歪むことなく真っ直ぐに伸びています。
退くばかりでしたから、試しに一歩前へ出てみることにしました。王剣を押し返し、返される刃に一歩を退いて弾き、また前に出てレイピアを打ち付けます。鍔迫り合うことなく刀身を流してもう一歩進んでまた反撃。返しの刃にまた下がる。
進んで、下がって。
進んで進んで、下がって。
進んで進んで進んで、下がって。
三歩、四歩、五歩。次第に退くことはなくなり攻守が逆転し始め、目を見開き歯を食いしばるユリウスの表情にふと思い出したことがありました。
(剣術とは、同格以上の相手に、駆け引き込みで渡り合うためのものです)
カリンの声。
しかし。
(相手が自分より下であるなら。死ぬまで好きなように殴りつければいいのです)
「ノった者勝ち。なるほど踊りと同じく、道理ですね」
「そんなわけが――ッ!?」
ユリウスは飛び退りながら即座に反撃、ノリ良くツッコミまで入れてくれた息が、止まりました。振り抜いた王剣の先、渾身の一撃を受け止めたのは。
レイピア、ではなく。
槍。
回します。打ち上げます。刹那に形を変えた武器、私の身の丈を少し超える程度の短槍を両手で保持し、前へ前へ前へ、右に左に上にと回転させてユリウスへ叩きつけます。
(槍で突くのは厳禁っす。仕留めなきゃ引く間に斬られます。回して下さい。手数二倍っす)
刃も柄頭も関係なく。ただ硬く重たい金属にて殴られれば、貴族とて死にはしないでも痛いのです。ゼロ距離の近接戦闘であれば致命的。ひとたび怯めば先に待つのは敗北のみ。
この程度で怯んでくれるならば苦労などしないのです。相手はユリウス。このハーノイマン最強の化け物に対し、僅かでも勝機をこじ開けようとするならば。
防戦一方、されど一手でも反撃の機会を得るため、紙一重、短槍の間合いから逃れた。
その頭上へ、振り上げた大戦斧を叩きつけました。
(斧は振っちゃダーメ。落とせば割れるんだから、テコの原理で、回すだけでいいの)
両手で掲げられた王剣の半ばを強かにぶっ叩き、弾き飛ばす威力と大地を割る衝撃にてユリウスの身体が宙を飛びます。即座に姿勢を制御して着地、する瞬間に。
(当てるのではなく、当たると思え。そうすれば、勝手に当たる)
限界まで引き絞った弓より、矢を放ちました。
地に手と膝をついて、顔を上げたユリウスの額をぶち抜きます。訂正、ぶち抜けはしませんでした。いやに硬質な着弾音が響き、噴き出した血潮が白雲の空を汚しただけで、背後へ仰け反ったユリウスは後転してから尻もちをついて、左手で頭を抑えます。なおも手放さなかった王剣は、戦闘続行可能の意思表示に他ならず。
「近衛たちの、戦技」
「再現には程遠いです。なにせ、魔法が使えませんから」
そうです。
もしもカリンの、レンの、ルーシィの、ベルの。
ユリウスは、大きく息を吸い、吐き出します。
「……姉様が、魔法を持たずに生まれてきてくれて、本当に良かった」
「ええ。私も、今でこそ、この身の無力に感謝していますとも」
それでも。
私は弓を下ろし、左手を胸に添えます。
「これもまた、私が成し、私が積み上げた、紛れもない私の力です」
偽物であるというなら、我が生き様だと誇りましょう。
嘘であるというのなら、死するその時まで騙しましょう。
真似事でしかないなら、いずれ本物を超えてみせましょう。
今は、それでいい。
それしか、できないのだから。
「私の名は――『
いつか、その全てを。
ほんの少しずつでも。
本当に変えていって。
「『
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