4. 本当言えば四人がかりで倒しに行きたい

『P1からアリシア様へ。敵五次攻撃を制圧、作戦C3を完了。損害無し。循環水路を超えてC4へ移行します』

「こちらアリシアです。了解しました。お願いします」

『P4、作戦D2完了。閃光弾の誤爆によりS18攻撃班三名が負傷。戦闘続行は可能と判断し、S20から一名を配分しつつD3へ移行します』

「早いですね。負傷者は補給部隊で救護対応します。焦らず、慎重に進軍を。……来ました。P2、およびP3へ高速接近する熱源が一つずつ。速度型の上位貴族でしょう。レン、ルーシィ、それぞれ対応をお願いします」

『ウ、ッス!』

『人使い荒ーいっ!』

「苦労をかけます。先ほどと同じく、二撃叩き込んで脚を止めたらすぐに退いてください。制圧は各部隊に任せます。消耗しているでしょうし、短くても休息を挟んで」

『P2、制圧しました。……狙撃で派手に吹っ飛ばしましたが、大丈夫でしょうか』

「脳天に鉛弾叩き込まれた程度で死ぬ貴族は居ませんよ。数日は起き上がれないでしょうが」

『こちらベル補給部隊、P4負傷者三名を回収した。軽傷だ、五分あれば復帰できる』

「ありがとうございます。P1の弾薬消耗が想定より多いです。火力、装甲型との交戦が多かった影響ですね。補給に向かいつつ復帰した負傷者を編入させます。P1――」

『S3からS5で受け入れます。循環水路クリア。橋を背に防塁を築きつつ進軍します』

「そこが正念場です。入念に陣を構築してください。補給は一分で到着します。カリン、オリビアさんの補給用物資は――」

「アハハハハハハ! 滾る! 滾るわ! なんだかよく分からないけど今日はとても調子がいいの! 鉛弾でも爆弾でも砲弾でも幾らでも湧いて出てくるわアッハッハッハ!」

「絶好調です」

「あまり無理はさせないでくださいね? 彼女が倒れたら総崩れになりますので」

「既に想定量の三倍を生成しておりますので、問題ないかと」

「了解しました。三分後に休息を取らせてください。必ずです」


 ふう、と額を拭い、手元の画面と、商店の屋上より戦場を見渡します。


 銃撃、爆撃、煙幕に閃光。火と水と土と木と金が街並みの間を荒れ狂い、そこかしこで破砕の音を轟かせます。時折上がる苦悶の声は、貴族のものか平民のものか。いずれにせよ、私が守らなければならない者たちには他なりません。


「アリシア様」

「大丈夫ですよカリン。分かっていますとも」


 気遣いの視線を向けるカリンへ、私は笑みを作ります。


 そうです。守ってばかりでも、守られてばかりでもダメなのです。


「この国の貴族は、知らなければなりません」


 画面へ目を落とせば、脱落者を出しながらも、着実に大通りを進行する四つの部隊があります。今のところは、順調過ぎるくらいです。たかが異界の武器を手にしただけの平民が、圧倒的に格上の魔法貴族に対して、互角以上に戦えている。


 しかし。そんな私の考えを見透かしたように、カリンが続けます。


「もしも、一つの部隊に四皇クラスが二人でもぶつかれば、すぐに瓦解します」

「本気の『戦争』であれば、そうでしょう。ですがこれは『祭』です。茶番に過ぎないこちらの狙いを、見抜いた上で袖にするような真似を、彼らはしません」


 同時に、手心を加えることもない。


 ゆえに。


『P2より後方司令。……四皇木家、セイル・フォレスブルム、確認しました』

『P3、水家マリアン・アクルメリア、接敵』

『P4、土家トマス・ランディールを確認。交戦準備に入ります』


 次々と届く、敵主力との接敵報告。


 私は短く息を吐いて、左手を胸に置き、にわかに逸る鼓動を抑えます。


「了解しました。P2からP4は手筈通りに。ジェムス、ここはあなたに任せます」

「ご武運を。アリシア様」

「ありがとうございます。行きましょう、カリン」

「はっ」


 一息に私を抱え上げるカリンの首につかまって、大跳躍。風を切り、流れる厚い雲の海を見上げながら、王宮にほど近い街並みをぐるりと囲う水路を超えて、橋を背に築かれた即席の防衛陣地へ降り立ちます。


 各々に緊張の面持ちを見せる兵たちと、後方に控える女官へ微笑みを向け、


「ここまでありがとうございます。この一時、第一部隊の指揮権を預かります」

「お褒めに預かり、至極光栄です。アリシア様」


 そんなに畏まらなくてもいいのに、と苦笑する私へ、女官は笑って跪き、隣へ控えます。


 その、瞬間。


 前方で、大地が弾け飛びました。


 轟音と共に舞い上がる噴煙、破砕し飛散する石畳。せっかく作った防塁がそれらを受けて崩れていきますが、元よりこのためだけにあったものです。即席の木柵や土嚢ごときで、どうして彼らを止められましょう。


 そう。生誕祭のルールに則る以上、彼らは自国民が相手であろうと決して手を抜かない。


 ゆえに、私が第一部隊の後方に控えていた意味を、理解しないはずもない。


「やはり来てくれましたね。四皇金家、トルニトス・ゴルトラオロン」






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