第6話

「久々にあそこ行くか」



矢吹の提案に私は「はい!」と頷き返した。


会社から歩いてものの数分。



到着すると、矢吹は手慣れた様子で引き戸を開け放した。



いつぶりだろうか。


いつか矢吹と隣同士で座った椅子。


椅子の横にある灰皿。


片思いしてたときと全く変わらない。



先に矢吹が中に入ると「らっしゃーい!」と変わらない威勢の良い声で迎えられる。


後に続いて私も中へ入る。


目が合った奥さんが「あらー!」と目を開いた。


奥さんの声に今度は店主が「お!」とカウンターから顔を出した。



「ご無沙汰してます」


頭を下げる矢吹に続いて、私も「こんばんわ」とペコッと礼をした。


「いつぶりかしら!」



付き合ってから二人で何度かこの店に訪れてた。


でもここ一年ぐらいは忙しくて顔が出せなかった。


「元気だったかい?」



そう言う奥さんももちろん店主も、少し白髪が増えていたけどまだまだ元気そうだった。


「はい!」


私は嬉しくて満面の笑みで返事した。



「あんた綺麗になったねー」


奥さんは私の頭をやんわりと撫でた。


そして「あんたも一段と男前になって」と矢吹に目線を移した。



色々と思い出のある店。


店主と奥さんにも何かとお世話になった。


こうやって笑顔で出迎えられると、とても嬉しいものだ。

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