第38話【幸せとは】ト【冬晴れ】

 カラオケ店で友達に誕生日を祝ってもらったその日、友達と夕食を駅の近にあるファミレスで食べて、家に帰った。時刻は21時を少しまわったところ。


萌香「ただいま〜」


と言って灯りの点いていないリビングの照明に電源スウィッチを入れると———。

<<パ〜ン!パパ〜ンッ>> パティー用のクラッカー音が鳴り、萌香の服に紙吹雪がかかる。


両親「誕生日おめでとう〜!!」


萌香は突然の出来事に驚いている。


萌香の母親「サプライズ大成功〜」


萌香の父親「だな。萌香も16歳かぁ」


萌香の父親は目頭が熱くなり天井を仰ぎ、涙が溢れないように目頭を指で押さえる。生まれてから今日まで子供(萌香)の成長を思い出していた。そして萌香の花嫁姿をして切ない気持ちをこらえている。


萌香の父親「———っつ」


萌香の母親「やだわ、パパったら泣いたりして(笑)」


夫が一体何を想像したのかなんとなく解り萌香の母親はくすくすと笑う。萌香の髪の毛や服についた紙吹雪を床に落としながらいつもより優しい口調で、


萌香の母親「萌香。改めて16歳、おめでとう。ママとパパのところに来てくれてありがとう」


と言ってキッチンの隅に隠しておいた白い無地の紙袋を萌香の手に渡す。萌香は感謝の言葉を一言述べ笑顔でそれを受け取った。紙袋の中にはピンク色の布のような柔らかい袋型の生地に包まれた何かがゴールドのリボンで袋の口を縛ったプレゼント袋が入っている。


萌香「開けていい?」


萌香の母親「もちろん」


リボンをほどき袋の中を開けると中から白の長財布と小さな香水のボトルが入っていた。香水の香りは萌香が好きな柑橘系でスイートオレンジの香りだ。


萌香「パパ、マミィありがとう。あたし大事に使うね」


『私達にとって幸せとは……隣にていつもと変わらない日常と笑顔が送れることが幸せ。あなたにもそう思える愛せる誰かとこの先素敵な出会いと幸せが訪れますように』


と手書きのメッセージカードが紙袋の底に入っていることを萌香は自分の部屋に戻ってから気づくのだった。


___________________


 伊多孝雄いだたかおの兄、藤雄ふじおが住むNZLニュージーランドを訪れて2日目の朝を迎えた。


孝雄は洗面所で顔を洗いリビングに行くと。藤雄がキッチンに立ち朝食を作っていた。作った料理をプレート皿に盛りリビングテーブルに並べていく。


孝雄「おはよう」


藤雄「おう、おはよう。よく眠れたか?」


孝雄「ま、まぁまぁかな」


孝雄は数年前から不眠症に悩まされている。医者によれば精神的なストレスが原因だろうと診断され、どうしても寝付けない時は睡眠薬を服用するように処方された。ストレスの原因は解っている。しかし対処法が難しい。

だから少しでもストレスを軽減させる為、日本を離れ藤雄のいるNZLへ訪れた。


孝雄「兄さんが朝食を用意しているのかい?」


藤雄「朝食だけじゃないぞ。平日は俺が家事を担当している。フィラは忙しいからな、孝雄が起きる前に仕事へ行ったぞ」


藤雄の妻、ミクロフィラ(愛称はフィラ)は観光案内所で働くキャリアウーマンである。この時期は北半球からの観光客が多く連日業務に追われている。

藤雄が2人の子供達を起こしに子供部屋へ行く。彼らの子供達は日本と違い学校に通っているようだ。

孝雄は1人で黙々と朝食を食べた。

食べ終わった食器は流し台へ置くように言われている。その後孝雄は部屋ゲストルームに戻り、出かける準備をしながら、観光で訪れる場所の天気をインターネットで調べてみた。

嬉しいことに今日の昼間は冬晴れであると表示している。

だが、NZLの天気は変わりやすく油断ならない。念の為雨具をボディバックの底に入れ準備しておく。藤雄が子供達を学校まで車で送り届けた後はいよいよ観光だ。


38話End


お題【幸せとは】25‘1/5

  【冬晴れ】25‘1/6

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とあるアプリで出題されたテーマから紡がれるセカンドストーリー 砂坂よつば @yotsuba666

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