現行の347話まで読み終え、頭の中で、まだ謎のピースがかちかちと嵌まり続けているようです。
作中、最も戦慄したのは、子供向けの絵本『時計塔のれきし』の使い方です。
ロビーがあの絵本を手に取った場面を、私は単なる「キャラクターの日常描写」として読んでいました。
それが建物の「OOOO(ネタバレ防止)」に関わる鍵だと判明したとき、自分が軽く読んでいたページの全てに意味があったことに驚きました。
これほど「最初から配置されていた」という言葉が似合う伏線は、他の作品ではそう見られません。
また、この作品の魔術体系に、私は完全に信頼を置きました。
呪文は口に出さなければ発動しない、使えばログが残る、マナは有限など。このルールが一切ブレないからこそ、事件の推理が成り立ち、「魔法で何でも解決」という逃げ道が封じられています。
その制限があるからこそ、ショーンが走行中の貨物列車の上から身を投げ出して呪文を放つ場面に、本物の切迫感がありました。
キャラクターの感情が言葉ではなく仕草で語られる筆致も印象的でした。
ショーンが自分のターバンを外して紅葉の角を隠してやる場面や、過去の写真の中でロイの視線だけがヴィーナスのほうを向いている描写。
どちらも一言も感情を説明していないのに、そこに込められたものの重さを感じました。
作中良かった一文は以下の通りです。
「悪が善に振りかざす力は、暴力だが、善が悪に振りかざす力もまた、暴力なのだ」
この一文が、物語全体の核心だと私は感じています。
各編の結末が完全勝利ではなく「痛み分け」であることに、最初はもどかしさを覚えました。
だけど読み進めるほどに、それがこの世界の誠実さであり、ショーンたちがまだ旅の途中にいる証なのだと納得しました。
事実だけを積み上げて結論を置く、その手つきが誠実です。
この精緻で容赦のない、それでいて温かい物語を書いてくださり、ありがとうございます。
ショーンの旅の続きを、心から楽しみにしています。
主人公ショーンは、羊の角と猿のしっぽを持つ少年。豊富な魔力を有する者しかなれない「アルバ」の資格を持ち、町の治療師として奮闘していた。
しかしショーンの日常は、町長の切断されたしっぽが発見されたことで、激変する。
失踪した町長。
嗅ぎ回る新聞記者。
謎は深まり、多くの人間関係が複雑に絡まる。
ことの発端は十年前の少女吊り下げ事件が?
十年前、事件で大怪我を負い記憶も失った少女・紅葉とともに、ショーンは事件の真相を追う。
副題通りの本格ミステリーを彩るのは、様々な動物の特色を持った登場人物たち。彼らがその身体能力を駆使する度に、どんな姿なんだろうと想像が膨らむ。
その想像の一助となるのが、作者自身が手がけた挿絵!驚くべきは高い完成度と枚数。あまりに緻密な描写に「これ、無料で見ていいやつ?」と思った。
必見です!
また、本文の完成度も素晴らしく、特に世界観の作り込みは私の中でNo.1です。とにかく作品愛が伝わってきます。その愛を感じる度に、素敵だなとこちらも満たされる思いです。
まずは読んで、挿絵を見てみてください!
登場人物は多いものの、それぞれ種族事の特性や性格を持ち合わせているため、混乱することなく読み進められました。多様な獣人が、その獣の特性を活かして生き生きと描かれ、そこに何気ない日常の生活の描写も相まって、リアリティあるファンタジー世界が生まれています。
個人的には、『ジーンマイセの丘』のような逸話が好きで、こうしたその世界オリジナルの民話が挿入されていると、歴史の堆積が感じられて、世界が厚い書物のように形作られているかのようです。
戦闘シーンは臨場感がありつつ、個々人の想いがそれぞれの行動に反映されている上、脇役だと思っていた人物が思いも寄らぬところで活躍を見せたりと、ハラハラしながら思わず食い入るように読ませていただきました。
ストーリーの『日常編』は、細部まで丁寧に描写され、ゆったりとした日常が彩られていきますが、『ミステリー編』から一転急降下、穏やかな雰囲気から一気に殺伐としてきます。
ミステリー要素も含みつつ、ダークファンタジーな印象もあるストーリーで、特に、ある時点から示唆されるとある組織の思想については、ぞっとさせられました。
そんなストーリーの中で、両親に劣るアルバとして劣等感に苛まれるショーンと、10年前の悲惨な事件の被害者でありつつも明るく気丈にふるまう紅葉の関係が、互いの脆さを補いつつ、魅力を引き出し合っているように感じられました。
よく練られた設定、濃密なミステリー&ファンタジーストーリー、魅力あるキャラクター。
『サウザス編』の後、物語がどのように展開されていくのか、そしてショーンは何を目指し、どのようなアルバになっていくのか。
この先の展開が気になるところです。